小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

だうん そのろく

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

 土産について、いろいろと考えながら、食事を続けた。さすがに、牛の陶板焼きは、俺でも腹が一杯で、ぎりぎり腹に収めた。







 食事が終わって、部屋に戻ったら、ベッドメイクされていたカバーは外されて、寝られるようになっていた。露天風呂の横にある小さな坪庭には、仄かな照明がつけられていて、なかなかいい雰囲気になっている。
「さて、露天風呂や。」
「・・・ちょお、待て。休憩させろ。」
 いつもよりは多目に食べたせいか、俺の嫁は腹を擦って、ベッドに倒れこんだ。そのまんま寝てしまいそうな勢いだが、そのとろりと融けたような瞳に、俺は安堵した気分になる。こいつが、この顔をするのは、たぶん俺の前だけだ。
「・・・ありがと・・・・」
 ゆっくりと仰向きになって、嫁は俺の頬を撫でてくれた。
「かわいいな、俺の嫁。誘うなや。」
「・・・さそてへんわ・・・・いや、さそてるか・・・くくくくく・・・・ストリップしたろか? 」
「ん? おまえ、酔うてるな? おうおう、嫁、ストリップしてくれや。」
「あははは・・・・鶏がらのストリップなんかで・・・誘われるて・・・おまえも・・たいがいにあほやな? 」
 仰向けに寝転んだままで、ゆっくりと、浴衣の帯を解いていく。別に色っぽいとは思わないのだが、そんなことをする俺の嫁が可愛いとは思う。帯を外すと、片膝だけ立てて、「ご開帳したろかぁー」 と、笑っている。

・・・・いや、どうせ、トランクスやしなあー、その中身。ついでに鶏がらやし。・・・・

「先に、パンツ脱いでから、ご開帳してくれ。」
 ああ、なるほど、と、嫁は頷いて、起き上がると、俺に背を向けた。トランクスをぽいっと脱ぎ捨てて、そのまんま、露天風呂へ歩いていく。
「おい、何する気や? 」
「何て? ナニやないか。ほら、ご開帳。」
 露天風呂の前で、潔く浴衣を脱ぎ捨てて、ぽちゃんと風呂に飛び込んだ。

・・・色気がない、色気が・・・・・

「花月、来ぃひんのかぁー」
「おまえ、もっと色っぽく脱げや。」
「俺に、そんなもん求めるほうが無理やろ。」

 いや、まあ、そうやねんけど・・・・まあ、ええか。俺も、たったと脱いで、嫁のとなりへぼちゃんと飛び込んだ。








 目が覚めたら、誰も居なかった。この間ほどの無茶はされなかったものの、やっぱり腰がだるい。起きないことはわかっていただろうから、散歩に行ったか、朝メシに出たと思われる。

 で、とても気配りができる旦那やと感心するのは、俺の枕元に、ペットボトルのお茶が、ちゃんと置かれているところだ。それを、半分ほど飲むと、俺はぐたぐだと、また寝る。昼メシの時間まで、部屋を借りてあるので、慌てて起きる必要はない。ピチピチという鳥の囀りなんてものが聞こえるのは、静かな温泉旅館らしい音だと思う。

・・・・・ていうか、せっかくの旅館やねんから、空が白むまでやるこたぁーないっちゅーねんっっ・・・・・・

 途中、何度か露天風呂に入ったり、休憩したりはしたものの、空が白むまで、なんだかんだとやっていた。もう、そろそろ落ち着けよ、と、思うのだが、やり始めたら、やっぱり盛り上がってしまうので、こうなっている。
「うーーー腰だるい。」
 もそもそと寝返りをうつだけでも、一苦労せねばならないのが、非常に不愉快だ。うつらうつらとしていたら、ガラっと障子が開いて、足音が近づいてきた。
「起きたか? 」
「・・・腰だるい・・・・」
「それは、自業自得やろ? あんだけ腰を使おうて、なんともなかったら、俺がビビるで。」
「・・・そうか?・・・振らしてんは、おまえやないか。」
「まあ、そうやけどな。・・・メシ食うか? 」
「いらん。」
「風呂で温めるか?」
「せやな。」
 とは言ったものの、さすがに担いでいくだけの体力は、花月にもなかったので、支えて貰って露天風呂まで歩いた。
「確かに、これはええわ。」
 すぐ傍に、風呂があるというのは、なかなか有難い。それも温泉だから、なお、身体にもいい。じんわりと温まって、畳の上に転がった。
「水都、土産やけどな。」
 その横に転がった花月は、あまり奇をてらったものではなくて、普通の土産を買った、と、教えてくれた。きびだんごと、白桃ゼリーだと言う。
「笑いものを贈ると、なんか仲良くなりそうやろ? せやから、普通のやつな。」
「ああ、そんでええんちゃうか。職場のは? 」
「内緒やから、なし。」
「さよか。」
「おまえんとこのおっさんらには、ええんか? 」
「いらん。なんで買わなあかんねん。」
「せやなあ。」
「なあ、花月。」
「ん? 」
「木曜日に出社というか、なんというかやねん。」
「うん、いらんかったら、おっさん、蹴飛ばして逃げて来い。」
「はははは・・・メチャメチャ凹ってくるわ。」
 自然の音しかない世界は、柔らかで心地よいものだ。そこで、ぽつりぽつりと会話して、俺は、また、うとうととしていた。こんな時間があるのは、ふたりでいるからだ。ひとりではできないことだから、ふたりでいたいと思う。

 この時間を製造した責任は、花月にあるから、責任はとってもらうつもりだ。
作品名:だうん そのろく 作家名:篠義