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血なんて不味いではないか!

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 カラコンを突っ込んで、寝間着からコンビニに買い物へ行けるレベルの格好へ昇華させ、跳ねて纏まらない髪の毛を適当に括ってリビングダイニングへと顔を出せば、クルックスと女性が何やら話し込んでいた。
 隣では三歳にもなっていなそうな子供がいる。手には爪が異常に長くて、血のような赤でペイントされている体毛がピンク色のクマのぬいぐるみが握られている。教育上かなりよろしくないと思うのだが、いかがなものだろうか。
 隣に座れば、その子はこちらへと腕を伸ばしてきた。握ってやれば、きゃらきゃらとあどけなく笑らわれる。
 笑い声に吊られたのかこちらを振り返った女性は、私を凝視してきた。目線を切ろうにもそれさえ出来ない位の眼力で、反応出来ずにいたら、こちらへにじりよってきて肩を掴まれた。私の手を撫でさすって遊んでいた子供も、びっくりしたように女性の方を見ている。
「あなた、クルックスさんのお嫁さん?」
「誰が嫁だ」「もっと可愛い子がいいって」
 二人で同時に言えば、彼女は残念そうに私の肩から離れた。と、思えば今度は頬に手があてられる。
「凄く肌がすべすべ……。白いし羨ましいわ」
 肌の感触を覚えてしまうのでは、という勢いで撫でられるものだから、寒気が背中を走った。腕を掴んでやりたいのだが、一応はクルックスのクライアントだし、暴力をふるう訳にもいかなくて我慢するしかない。
「掛川さん、まだ話が纏まってないって」
「そうだったわね」
 ち、と明らかな舌打ちをしながらクルックスの方を向いた女性から離れれば、私に懐いたのか子供もついてきた。
「なまえは?」
 首を傾げながら問いかけられたので、頭を撫でてやった。嬉しそうに目を細められる。ガキは嫌いと豪語していたが、大人しくしていれば案外可愛いものである。
「私の名前か? アリオンドルト・フェイエノールトだ」
「ながい」
 本名なんだから、仕方ないだろう! と思わず叫びたくなった。クルックスにも嫌がられる長さの名前だし、小さい子には辛いかも知れないが、一言で斬る事はないだろう。
「アリオン、でいいが」
「んー……あにそん?」
 私の名前とは、そんなに発音がしにくいのだろうか。アリオンと言えば、ギリシアで有名な詩人の名前なのだけれども。
「って私はいつから二次元に……っ! もう、好きなようによんでいいぞ……」
 もう目の前が真っ暗である。ポケ×ンが全滅した時の描写を彷彿とさせてくれた。
「じゃあ……あーちゃん!」
 紅葉のように小さい手を私の背中に回すように抱きついてきて、首をこてんと傾げながら言ってくるものだから引っ剥がす事なんて出来なくて、そのままにしておく。が、(一世紀は軽く)年上で男の私をちゃん付けで呼ぶのは理解出来そうにない。
「この子はどうなっているのだ、クルックス」
 後ろを振り返ってみれば、なにやら携帯をいじろうとしている掛川さんと、それを阻止しようとしているクルックスの姿があった。馬鹿力で有名な彼が一般女性と、対等なバトルを繰り広げているなんて、変わった光景である。
「そんな事言われたって、俺は知らないよ。というか掛川さんから携帯を奪って!」
「携帯を奪ってどうするのだ?」
 必死そうな顔をしながら、こちらを見てくるものだから掛川さんの携帯へと目を移す。キラキラとデコレーションされたそれは、本体と同じくらい大きい飾りがついている。これを奪って、なんの意味ががあるというのだろう?
「早く仕事行ってください掛川さん。そして携帯を分捕ってアリオン!」
「嫌よ。こんな面白い場所、仕事休んでも居続けたいわ……ていやっ」
「うぁああ!」
 掛川さんはクルックスにタックルをぶつけ、よろめいた所を携帯を奪還していた。目が追いつかないようなスピードでメールが作成されている。阻止しようと手を伸ばすけれど、くる、と後ろを向かれたり、すっ、と腕を上に伸ばされたりと没収する事が出来そうにない。
「よし、これで私は一日ヒマだわ」
 誇らしげに笑う彼女に、げんなりとしたクルックス、理解していないらしい子供に、どう反応しようかと戸惑っている私。皆、様々である。
「……大人が二人にいるのなら大丈夫だな。私は部屋に戻るぞ」
「あ、ちょ、待てってアリオン!」
 引き留めようとするクルックスの腕をはねのければ、涙目でこちらを見てきた。
「あーちゃん! みむの、おうた、きいてからにして」
 ぎゅうと足に抱きつかれて、前に進もうにも動けそうになかった。一〇キロそこそこだろうに案外重たいものだ。
「お前が歌うのか?」
「ちゃんと、うたうから、おねがい」
「……一曲だけな。もう眠い」
「おねむ?」
 誤魔化すように頭を撫でてやれば、ぱ、と腕を離してくれた。喉元に手を当てて、息を深く吸い込み声帯を震わせる。小さい子が歌っているとは思えない位の声量である、柔らかく耳に響いてきて、ビブラートも綺麗にかかっていた。
「……アリオンとは大違いだ」
「相変わらず凄いわね」
 が。
(なんだか、頭がくらくらするぞ?)
 何故だか知らないが身体に力が入らなくて、情けなく座り込む羽目となった。手も少し震えていて、焦点も合わないという始末である。
「ちょ、アリオン!」
「……どうかしたか、クルックス?」
「なんだか、おかしいって!」
「……、別に大丈夫だぞ?」
 そう見栄を張ったものの、立ち上がれそうになかった。力が入らずふんばる事が出来ないのだ、まるで骨が溶けてしまったようだ。
「ちょっと待ってて。掛川さんと、みむちゃん。俺はアリオンと話があるから」
 クルックスは私の肩を掴んで、掛川さんとみむの視線を避けるように背を向けさせた。無理矢理動かされた骨や筋肉に痛みを覚えでもいい筈なのに、なんとも感じなかった。
「あー……すまないクルックス」
「仕方ないってアリオン。もしかして彼女はアレな訳?」
 信じがたいけど、と付け足したクルックスは私の背中をやわやわと撫でてきた。これって吐き気があったり、咳き込んでいる人にする行為じゃ? と思わなくもないが、きっと彼なりに心配をしてくれているのであろう。
「そう、アレだ。……ダンピールなんて、普通の吸血鬼よりも絶滅危惧種だろうに」
 ダンピールとは、人と吸血鬼の血を受け継ぐ半人半魔である。吸血鬼と人の間に子を授かるのも珍しいし、そもそも産まれても殆どすぐに死んでしまう筈なのだが。それでも生き残った者はダンピールと称され、将来は吸血鬼ハンターが永久就職先になる。
「みむちゃんは女の子だし正確にはヴァムピーラだって。でも、彼女に歌わせたらダメだね」
 ダンピールの迷惑な所である。彼ら彼女らは歌や踊り、楽器の演奏など何気ない行為で吸血鬼を浄化させるのだ。だから、テレビにダンピールが出演していて、歌われた時なんて急いでチャンネルを変えなければならない。と言いうように、私たち吸血鬼の行動にかなりの制限を与えてくれる存在なのであった。
「どうしたの? みむが、歌ったらよくなる?」
 待っているのに飽きたのか、こっちに寄ってきた。それは別に構わないのだが、歌って欲しくないと正直に言ったなら泣いてしまいそうで、返答に困ってしまう。
「やめなさい、みむ。お兄ちゃんが困ってるでしょう?」