愛と引きこもり
小学生よろしく、手を挙げて元気よく返事をすると、ふっとななみちゃんが笑ってくれる。どんな顔も好きだけど、やっぱり笑ってくれるのが一番いいと思う。好かれてるんだなあって、わかる。好きなのが伝わってるんだなあって、安心する。
バッグを背負い、ななみちゃんは視線でキッチンのあるほうを指す。口元がマフラーで隠れてて、どんな表情なのかわからなかった。それは残念だけど、でも冬場のななみちゃんは着膨れしてぽってりしてて、すごくかわいい。
冬生まれなのに寒いのが苦手。いつだったかぽろっとそうななみちゃんが言ったことがって、結果二人の愛の巣はいろんな暖房器具を網羅するに至ったのだ。ああ、これもまた愛のなせる業。
やりすぎだって怒られましたがね、悔い改める気はまったくありません。だって、ななみちゃんに寒い思いさせたくないんだもん。
「学校のあとバイトがあって帰るのは明日のお昼前になるんで、そのあいだはおなかすいたら冷蔵庫とかのぞいてみてくださいね。じゃあ」
「いってらっしゃーい」
ぺこっと頭を下げ、ななみちゃんが出かけて行った。
この瞬間はわりかし嫌い。帰ってきてくれるのかなこんなだめ人間のところに、なんて柄にもなく怖くなるんだよね。ななみちゃんが傍にいないのはすごく嫌だ。もう一人は、無理。生きてけるわけがない。
「よし、……頑張るぞー!」
沈んだ気持ちを発散させるべく、俺は無人の部屋でぐーっと伸びをして決意表明をする。こうでもしないと絶対にしぼんじゃうのはわかりきってる。書くってどどのつまり、見えない自分との戦闘だ。
手はじめにパソコンを立ち上げて、暖房をこたつだけに絞った。さすがに夏みたいな温度だと五、六年来の相棒のデスクトップがいかれてもおかしくない。壊れたら買い換えればいい話だけど、愛着はお店に売ってないものでして、名残惜しい。
ななみちゃんは、一緒に住むようになったころから外のバイトをはじめた。そんなことしなくてもいいのにって、家事全般に今までどおりバイト代だすよって言ったら、それはおかしい、今は自分はバイトじゃなくて同居人なんだから、バイトくらいしないとって。ほんとにしっかりした子だよなあ、俺と違ってさ、などと感心すらしちゃいますよね。
深夜シフトが多くて心配だけど、すぐそこのコンビニだって言ってたしきっと大丈夫。男の子だし、絶対帰ってきてくれる。