愛と引きこもり
髪は、このまま伸ばしてしまおう。何か一つでも飯浜に好かれる要素を造る余地があるならば、従いたかった。我ながら乙女な思考回路をしていると呆れてしまう。また、甘いとも。
どのくらいの長さがいいのかは量れなかったが、指で梳きたいというからにはそれなりの長さがあるにこしたことはないだろう。邪魔になったら束ねてしまえばいい。希望は薄くても、ただ、気休めにはなるはずだ。
「ななみちゃん、次は塩がいいなあ俺」
「そんなにラーメンばっかり食べてると身体壊しますよ」
「じゃあ味噌」
「そうじゃなくてですね……」
にこにこしながらラーメンの味の要求をしてくる飯浜にがっくりと肩を落とす。いくらこちらが考え込んでいても彼はこの調子なのだ。男同士だというのを抜きにしても色恋には発展しないのではないだろうか。しかし、そういうところも七海は好ましく思っている。傍にいるのを許される。それは、幸福なのではないか。
髪を切らないでいようと決める。理由の大部分は自分のためであり、またそれゆえの願掛けのようなものでもあった。きっかけはささいな言葉だったが、成就して欲しい願いをつかめる日が訪れることはないだろうと、確信している。だからこそ、髪を伸ばしていたい。
彼を、好きでいる限りは。
愛と雨模様
ホットカーペットにストーとエアコン、実家から持ってきた分厚いどてら、それから極めつけがこたつ。
十二月下旬、冬真っ盛りとは思えないほど新居はあったかい。むしろ暑いくらいだ。こんだけ着込んで暖房器具つけまくってれば当然だけど、こういう状況で大好きすぎるななみちゃんを困らせるのが、さらなる俺の贅沢。
「ねえねえ、冷やし中華が食べたいなー」
身支度を整えているななみちゃんの背中に猫なで声をかける。マフラーを巻きながら、ななみちゃんは心底うんざりした顔でこっちを振り向いた。あーああ、もう。そんな顔もかわいいなあ。呆れた顔も怒った顔もかわいい。好きが重症だ。
こたつにつっぷした俺を、怪訝に見下ろす。
「真冬にそんなもの売ってませんよ。先生はほんとに……俺、学校行くんで、きちんと仕事しといてくださいね、あと十枚なんですから」
「はあい。あーできれば冷やし中華を作ってくれななみちゃん」
「はいはい」