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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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愛と引きこもり

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人付き合いが面倒だと言い張っているわりにはこんなふうな気遣いを飯浜はしてくれる。家事全般をはじめ、何から何までやらされるが、自堕落な雇い主に嫌気がさしたことはない。元々彼のファンだったというのもあるが生活力が皆無でも彼には才能があったし、それを生かした仕事にだけは勤勉だった。締め切りを一度たりとも破った過去がないのである。何より、七海の作るものを美味しいと言ってくれるのが一番嬉しかった。
だから、飯浜を好きになったのだと思う。作品はもちろん、本人のことが。
箸を持ち俯くと、頬に髪が落ちてきた。長らくほったらかしにしていたせいで首を覆い隠す程度にまで伸びた髪を鬱陶しく感じる。以前髪を切りに行ったのがいつだったのか、七海はもう覚えていなかった。
指で耳にそれをよけ、ラーメンをすする。暇ができたら切りに行こう。どんどん先延ばしになるのは呑気にこう考えているせいだと、そろそろ気がついていた。
「俺さあ、髪の長い子が好きなんだよね」
飯浜の声にはっとして顔を上げる。まさか。期待をする。しかしすぐに早とちりだとわかってしまい、七海は一瞬でも甘い考えを持った自分を恨んだ。彼が、振り向いてくれるはずはないではないか。
シャンプーのCMだった。長く、艶のある髪を風に躍らせた女優が街中を颯爽と歩いている。飯浜は画面のなかの彼女を追いかけながら言っていたのである。
「あれをこう、指で梳きたい願望があるなあ。ななみちゃんは?」
「俺は……なんでもかわいいと思います。似合ってれば」
「そう?」
七海が答えると、飯浜は興味をなくしたようにテレビから視線を外した。休めていた食事の手を動かす。いたって普通の市販のものだったが、飯浜は実に美味しそうに食べてくれる。原稿に切羽詰っているときでも、七海を邪険に扱わないでいてくれる。むしろ邪魔になるから帰ろうとするのをここにいてくれと引き止められたのも一度や二度ではなかった。
だから、さきほどのように期待をしてしまう。もしかしたらと、思ってしまうのだ。
首にまとわりつく髪を少し触ってみる。男にしては長い部類になるだろう。期待をしないほうがいい。頭では理解していても、心を納得させるのはたやすくはない。好意を持っている人には、少しでもいいように見られたいと思うものだ。
作品名:愛と引きこもり 作家名:こがみ ももか