愛と引きこもり
食べ始めたのを確認するとななみちゃんが踵を返し、戻ってきたときにはお茶のペットボトルを二本持っていた。差し出された一本を受け取ると胃に流し込む。床に腰を下ろしたななみちゃんはチャーハンの感想が気掛かりなのかしきりに俺を見ていた。
「ななみちゃんはさあ、なんでこのバイトやめないの?」
「やめて欲しいんですか」
「いやいやいやそうではなく」
「冗談です」
に、と薄くななみちゃんは笑う。脳みそが混ざるかぐらいの勢いで首を振るとさらに彼は瞳を細める。ななみちゃんは、たまに意地悪だ。
「だって先生、俺が辞めたら確実に廃人になるでしょう。俺が来る前、先生死んでましたよなんか」
「まあ確かに」
「だから辞めません。それにこういうの好きなんです。あと誰よりも先に作品が読めますしね」
ななみちゃんを雇う前を思い出す。全てをネットに任せ、食べるのは通販でやってくるインスタント食品が主。たまに出前で、それはほんとにたまにだった。人と話すのも編集以外には機会がなく、ただ毎日書いて寝て引きこもってな日々だった。
外とかに行くのも対人関係を築くのも相変わらず面倒だし嫌いだ。でも、ななみちゃんは別だった。なぜか彼とだけは面倒とかそういう思いがない。ななみちゃんがいなくなったらなんて想像したくもないし、できないし。
俺はこの現状が幸せなんだ。
「つまり本人はどうでもいいと」
「あっ、いえそうじゃなくて」
「知ってるよ。いつもありがとねななみちゃん」
これ美味しいよ、と付け加える。絶妙な味加減はどこで覚えてきたんだろうか。
まっすぐ目を見つめて言うと、無言で即座に顔を背けた。眉をひそめて、伏目がちで、唇は真一文字。そうそう、やっぱりそれ、それなんだよ。その照れた顔が大好きなんだ。
かわいいなと思う。ずっとあれが見れたらなと思う。ずっと俺のとこにいてくれたらなと思う。馬鹿みたいにそう考えてしまうのは、きっとななみちゃんが好きだからなんだろうな。じゃなければこのだめ人間の極みな俺がやる気になれるはずもない。
「いっそのこと一緒に住んじゃおっか。もうちょっと広いとこに引っ越してさ。通ってくんの、そろそろめんどいでしょ」