愛と引きこもり
非常にうっとうしそうな返事を返したのは吉沢七海二十二歳男子。まだ現役大学生で、一応うちで雇ってるバイトくんである。平たく言うと俺のお世話係だ。家事全般から原稿催促、果ては電話対応来客対応とその能力はオールマイティ、なんでもやってくれる。仕事以外なんでも適当すぎる俺に、超がつくほどに生真面目な彼はきっと呆れまくっていると思う。だけど一向に愛想をつかされる兆しがなくてなんてできた人間なんだと俺は日々感動し、感謝しまくっている。
俺の楽しみ。それはこの三つ年下の男に構ってもらうことだった。
「お、できた? 今日何?」
背中に気配を感じくるりと振り返るとお盆を持ったななみちゃんが無表情で立っていた。世話焼きのくせにこういうところは柔和じゃない。表情が硬いのだ。でも口は意外とくだけてる。つんつんした性格が妙にかわいくて、どうも余計なことを俺は口走ってしまう。からかって、怒られる。それが楽しい。
目線をお盆の上に落としながらななみちゃんはぼそりと言う。
「チャーハンですけど」
「えーカレーがいいー」
いつものように困らせてみようと、俺は口を開く。すると見る見るななみちゃんの眉間に皺が寄り、不機嫌に唇が引き結ばれる。声も一つ、トーンが落ちた。
「先生、昨日チャーハンが死ぬほど食べたいって言ってましたよね」
「いやでも実際ななみちゃんが作るならなんでもいいや」
不満げな小言に笑顔を返し両手を差し出す。ため息をつきながらもななみちゃんがそこにお盆をのっけてくれる。すぐに顔を背けたのは多分俺の褒賞に照れたからだ。かわいい。これが見たくて、ついついああいうことをしてしまう。小学生だか中学生みたいな俺は懲りるなんて言葉を知らない。
皿につけてあったスプーンで一口すくって、放り込む。チャーハンっつったら醤油、という俺の発言を覚えてくれているななみちゃんはやっぱり最高にできた子だ。俺の世話係なんてもったいないくらいである。
もともとななみちゃんは編集部でバイトをしてたんだけど、俺の担当がこの自堕落さに危機感を覚えて彼をこっちに引っ張ってきたのが縁になってこんな関係が続いている。なんでも俺のファンだったとかで引き受けたらしい。さすがにバイト代は俺が出してるけど、たまに申し訳なくなる。まあ、生活の改善を絶対しないけど。