愛と引きこもり
今度はこっちを見て、はっきり告げられる。突然こぶ取りじいさんを思い出した。俺の両頬にこぶがついてたら、もうなんか即効で落ちてると思う。こんなでれんでれんした頬についていられるこぶなんて、そうそうあるはずない。
「へへへなんかうれしいな。ななみちゃん、好きだよお」
「……はい」
真っ赤なの、かわいいなあ。蜜月すぎてやばいなあ。好きな子をぎゅーってできるっていいなあ。
ななみちゃんがここにいてくれるのって、いいなあ。
愛と甘やかし
自分は片付けられない女ならぬ、見つけられない男だと直樹はしみじみと思い知った。
部屋自体は綺麗好きの七海がいるおかげで整然と片付いているのだが、どうにも直樹はどの引き出しの中になにがしまってあるのかが覚えられない。しかも、探すのが面倒で仕方がなかった。我れながらどうしようもないやつだと、直樹は部屋の真ん中で自嘲する。直樹のこれまでの人生はすべて、開き直りで構成されていた。
「ななみちゃーん、爪切りどこー? 足の爪がやばくなってきた」
しかも今日も今日とて、直樹は彼に頼りきりで生きている。このまま一生、死ぬまでこうやって寄りかかっていけたら幸せだ。なにせ、七海が好きだから世話を焼いてほしいのだ。
ソファにゆったり座り、七海は直樹の新刊に読みふけっていた。献本きてるよ、といくら言っても彼は自分で買うといって憚らない。いはく、読みたい本は本屋でお金を出して自分で買わないと気が済まないらしい。むしろその前にも脱稿段階ですでに読んでいるはずなのだが、本という形態にもこだわりがあるらしかった。
七海の足許にじゃれつくようにすると、彼は本から顔を上げてしばし斜め右のほうを見やった。なにやら思案している様子で、自分で探せと怒られるのかと肩を竦ませてしまった。
「直樹さん、座ってていいですよ」
そう言い置いて七海は本を閉じ、すっと立ち上がってパソコン机のほうへ足を向ける。やっぱり怒らせたのか。ひやりろなって、直樹は追いすがって背中からしがみついた。ほぼ同じくらいの体型ではすっぽり包み込む、というのは無理な話である。
「なっ、なんで?」
「切ってあげます」
振り向きもせず、七海はいささか乱暴に直樹を振りほどいた。もう一度、座ってていいですよ、の声。