愛と引きこもり
架空の人間の惚れた腫れたとか考えてる場合じゃない。自分だ自分。まず、自分をなんとかしないとだめだ。このままなんにも伝えずにもやっと生活していくより、知っててもらいたい。ずっと傍にいたいのにこの先ただの同居人じゃやっぱり嫌だ。
この際ななみちゃんが俺を嫌いという可能性は考えないことにして、ってかいやそれは大丈夫。嫌われてたら俺みたいなのの相手はしないはずだから、きっと大丈夫。たぶん大丈夫。おそらく大丈夫。
そうだと思いたい。
好きって言ったその後嫌われる可能性からも今はひとまず目を逸らしとこう。マイナス思考、よくない!
前向きに、まずなんて言おうか考えとかなきゃいけないよね。決行はご飯のときとして、やっぱり普通に無難に「好きです」とか? 若干遠まわしに「ずっと一緒に暮らしてください」? 「不束者ですが末永くどうぞよろしく」とか「飯浜七海になりませんか?」とかの結婚系がいい?
「……伝わらなかったら恥ずかしいなそれ」
ぐるぐる考えて、たどりついた結論にがっくりする。気持ちは伝えたいと思ったからには、相手に確実に届かないといかんよな。
「普通がいいか、普通がさ……」
テキストエディタの中、ちかちか点滅するカーソルをぼんやり眺めながらつぶやいた。特別なことすると、失敗したとき痛手倍増だもんな。やめたほうがいいよね。普通に、平凡に。
「ななみちゃん、……好きです」
練習がてらパソコンに向かって言ったら猛烈に消えたくなってきた。こんなんで、大丈夫か自分。本人に面と向かって言えるのか自分。
言える。言えるはず。言えたらいいな。言えればいいな。
「絶対言うもん……」
脱力して、椅子に寄りかかると背もたれがぎしっと悲鳴を上げた。叫びだしたいのはむしろ俺だった。好きだなんて、二十五年間誰にも言ったことがない。好きになった子がいたかも怪しい。しょせん俺は引きこもり。
ななみちゃんしか好きになれない、引きこもり。
学校からななみちゃんが帰ってきてどうしようってそわそわした。夕飯作ってくれて向かい合って座ったときはさらに激しく緊張した。あんなに食べたかった煮込みうどんに全然心が躍らない。あんなになんて言えばいいかなとかいろいろ考えてたのに、本人を前にすると頭真っ白。「好きです」でいいはずなんだけどってわかってるのに真っ白。なんかもうぐるんぐるん。
「あの、ななみちゃん」
「なんですか」