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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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愛と引きこもり

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俺の周りだけ雨が止んで、ざあざあという雨音が違うものに変わった。ばらばらばらって、薄い膜みたいなのに弾かれる音。
ばらばらばらってのは、傘のとこに雨粒がぶつかる音だ。
どきどきしながら、ものすごい期待をしながら顔を上げた。泣きそうになった。
「あ……ななみちゃん」
鞄とビニール袋を提げたななみちゃんが面食らった、でもやっぱり呆れた顔で俺に傘を傾けてくれている。さらさらの、肩にかかった髪が俯いたせいで不安定に揺れてる。嘘じゃないかって血の気が引きそうになったけど、雨が傘に遮られてるんだからそれはないって自分に言い聞かす。
心臓のどきどきが治まるどころか急激に高まって、ぽかんと俺は困惑気味のななみちゃんを見つめた。
「何してるんですか先生、傘も持たないで。というか先生、外出られるんじゃないですか」
言われて初めて、自分が脱引きこもりをしていたことに気付いた。外に、出てた。外なんて出たのいつ以来だっけ。雨に濡れたのなんて、いつが最後だっけ。
必死だったからなんにもわからない。ななみちゃん、いなくなっちゃやだ。それだけだったから、思い出せないわかんない。
地面にへたり込んだまま、たどたどしく口を開いた。
「や、あの、だってななみちゃん帰ってこなくて……出てっちゃったのかと思って、俺……だってななみちゃんがいないなんてやだし、ごめん」
「出て行くわけないでしょう。先生は俺がいないと、だめだって知ってますよ」
「な、ななみちゃん」
脳天を雷が直撃した。胸キュンてこのことかと思った。うまいこと返せなくて、金魚とか鮒みたいに口をぱくぱくさせる。俺はなんて情けないんだ。なんてだめ人間なんだ。こんなだめ人間を構ってくれるななみちゃんはなんて素敵な人なんだ。
ななみちゃんがため息をついて、大げさに肩をすくませた。そんなに中身の入ってなさそうなビニール袋を掲げて見せる。
「大変だったんですよ。もう、眠いのに電車乗って冷やし中華探しに行ったじゃないですか。しかも帰りは雨降るし……」
「ああああななみちゃん!」
「うわっ先生、ちょっと……冷たいです」
渾身の力を振り絞ってななみちゃんの腰に抱きついた。いきなりの衝撃に耐えられなかったみたいで、ななみちゃんは俺ともども雨で冷え切ったコンクリになだれ込む。傘が転げて、鞄が落ちる。買い物袋だけはななみちゃんがとっさに抱きしめたおかげで無事だった。
作品名:愛と引きこもり 作家名:こがみ ももか