無敵最強絶対不敗伝説
逆にルナは徒手空拳において、手数になる。お互い、剣が通じない相手を倒すためにあえて選んだスタイルだった。
気がつけば、両軍とも総大将を残し全員倒れていた。戦争はたった二人の手によって引き分けられてしまったのだ。距離をとってルナが口を開いた。
「もう、私たちが戦う理由は無いんじゃなくて?」
リナにもそれはわかるがしかし、
「君は勝負には興味ない?」
リナは戦いを楽しんでいる様子だった。ルナは続ける。
「あなたとの勝負は楽しいわ。でも、ここはリングでも道場でもない。戦場よ。これ以上お互いに疲れるだけの戦いはするべきじゃないわ。」
ルナは冷静に戦争の結果を見つめる。
「両軍全滅なんて、変な話だけど、私が一人で片付けるはずの戦いをあなたが邪魔して、あなたもあなたで一人で片付けてしまったわ。お互いにもう戦う理由はないの。」
ルナがきびすを返した。最後に
「あなたとはヤヘイ闘技場あたりで決着をつけたいわ。」
ヤヘイ闘技場それは世界最高峰の格闘協会であり、ヤヘイの格闘兵団が世界最強と言われるのはこの闘技場の存在が大きい。
「ボクはいつか、君とちゃんと戦う。今度は剣なんか折れないよ。ボクが君を倒しちゃうからね。」
リナは黄色眼を閉じてそう声をかけた。ルナは顔だけ振り向いて静かに笑顔を作った。
戦争が終わり、各軍の大将役はそれぞれの国で報告をした。
「両軍全滅?どういうことかね?説明したまえ、大佐。」
皇帝の前でしぶしぶ報告する大佐はオーシャン国軍の責任者として責任を追及されていた。
「我が方は傭兵として、スカイヤの治安局から懸賞金を稼ぐ少女、リナを起用して戦ったところ、リナは予想をはるかに超える働きで、マウントを叩き伏せていきました。しかし、マウントにいた少女に我が方は全滅させられたのです。戦争は結果的にたった二人の少女に荒らされたようなものです。」
大佐も納得しきれない・・・信じきれない気持ちで報告した。
「黄色眼を使うような人間ならば、1万人前後などたやすく蹴散らせますが、両者痛みわけでは、君を無罪放免というわけにはいかない。我が方も5000人の同胞を君に預けたのだから。陛下、とはいえ黄色眼がぶつかればこのような結果も十分にあること。寛大な処置をお願いいたします。」
皇帝に頼んだのは慈悲深い大将である。この世界ではどこの国でも大将という役職が最高位となっている。軍の総大将と大将は役職が微妙に違っている。さて、これに対し皇帝は
「くるしゅうない。そなたも災難であったのぉ。傷を癒すがよい。」
裏返った声で、威厳のかけらもなく、言い放った。それでも皇帝の言葉は絶対なので、今回大佐は無罪放免という結果に落ち着いた。
マウントでは、准将の報告の後、対策会議が開かれた。マウントではルナの苦戦は国の苦戦である。責任以前にルナと肩を並べる敵がいることに対する対策が講じられており、准将もまた責任は追及されなかった。なにより、両軍とも、リナ、ルナに命を奪われたものは一人もいなかったのである。
衝撃波で気を失ったものがほとんどであり、せいぜい、変な倒れ方をした者が打撲をした程度である。
さて、リナは言い値どおりに10万円を受け取って旅を再開した。目指すはチボーン共和国である。
マウント国にはルナがいるが、ヤヘイ闘技場で会う約束をしたので、チボーン側から、ヤヘイに向かう予定だった。
しかし、オーシャンの首都を出ると、何故かルナがいた。ルナは言う
「あなたの強さを目の前で見たいから軍隊辞めてきちゃったわ。あなたと一緒に旅をさせてもらうことにしたの。」
軍隊を一人でつぶすような少女が二人手を組んだ。これでは世界のバランスが崩れるほどの大戦力ともいえるが、あいにく、二人に世界を滅ぼそうというつもりはなく、決闘の決着もしばらく先延ばしということで、旅に出ることにした。
オーシャンの南側のとある街でも山賊の噂が絶えない。被害も出ているのでもはや噂ではない。
新島か小島の手のものかもしれないので、その山賊の本拠に足を進めた。看板には稲田会と書いてある。
「あんだぁ?おじょうちゃんたt・・・ヒデブッ!」いまどきこの二人に堂々と絡んでくるあたり筋金入りのチンピラである。海のリナ、山のルナは世界の常識となっている。稲田会とて、無能では無いので、少しわかるものが出れば態度も変わる。
「海のリナと山のルナだ!!俺達ここで死ぬんだぁ!!!俺は賞金首じゃねぇけど皆殺しだぁ!!!」
喚く組員を捕まえてリナが訊いた。
「稲田さんって新島さんとか小島さんとつながりあるの?」
コロコロした声で無垢な声でリナが聞くが、組員には死神の宣告にしか聞こえない。
「あなた達のお仲間に新島とか小島って人はいるの?」
高いけどこちらは柔らかい声だ。組員にとっては大差も無いが、幾分増しなようだ。
「お、オラたつぁなんもかんでねぇづら。見逃してけろ。おかんにたらふくくわせんだベ。」
失神寸前の組員は覚えた公用語が話せないままに命乞いをする。必死に逃げているつもりだが、その場でじたばたしている状態である。リナはとっくにつかんだ腰元を放していたが、本人が勝手に暴れているのでほっといた。
稲田の部屋にたどり着くまでに二人に恐れをなしてその場で"おひかえなすって!"をする人や、
土下座する人、逃げ出す人などがあったが何とか稲田の部屋にたどりついた。稲田は観念したとばかりに開き直って二人を出迎えた。
「私の首な ど一文にもならないが、なんの用かね?」
ルナが言い返す。
「あなた達が付近の街で盗賊やってるっていうから、ぶっ潰しにきたのよ。」
稲田はぶっ潰すという言葉に一瞬恐怖したが、それならばまだ言い分がある。
「それは寺島のことではないか?我々は山中の施設を取り扱っている。なに、缶ジュースを一本500円で売っているだけさ。山の中の自動販売機だから我々も仕事がやりやすい。中身は水で薄めてあるから原価もずいぶん安くなっていてだなぁ・・・あ?どこへいく?」
たんなるぼったくりなので襲う必要は無いが、リナとルナは二人で壁に、あるガラを剣で掘り込んだ。ミシンが暴走でもしているのかというほどの手さばきで、これが軍隊を消滅する力である。二本の剣がクロスしているガラで、リナとルナの友情の証だそうだ。付近住民と仲良くやるようにと言い残して稲田会を後にした。ヤヘイの寺島がオーシャンの村を襲っているという。
チボーンもいいが、スカイヤも経由していくプランで、新島と小島にもよることにした。スカイヤの新島の元にたどり着くと、いつも以上に熱烈歓迎をされた。
「兄の横暴から組を救ってくれた姉さん、戦争でも大活躍だったそうで。ごくろうさんっす。」
新島の弟である、新島がリナをねぎらう。新島組は完全にリナの言いなりになっていた。リナとルナは新島組の代紋の上にガラを掘り込んだ。リナは世界中の山賊や盗賊を傘下に納めていくというプランをこねていた。
「ところでそちらの姉さんは・・・山のルナ姉さんで?」
新島が恐る恐るたずねるとリナは満面の笑みで答える。
「うん。友達でライバルのルナ。」
組の事務所の一室に戦争を破壊する二人の少女が同時に存在する。新島は恐怖と畏怖の冷や汗を拭いながら、挨拶をした。
作品名:無敵最強絶対不敗伝説 作家名:peacementhol