無敵最強絶対不敗伝説
オーシャン軍の少尉が見たのは、信じられない速さで味方を切り殺していく物体の影である。
影が自分に迫ってくる。全身に殺気がなめるようにまとわりつく。どこから攻撃がくるか判断できないうちに、世界が真っ二つに割れていく・・。
リナの目は涙に濡れながら黄色く輝いていた。黄色眼、それは千人に一人の割合で存在する天性の才能。開眼の切欠は、大切な人を失うこと。涙で黒い瞳が洗い流されて色が剥げてしまったかのように悲痛な色だった・・。
結局、リナが暮らしていた街はオーシャンの手に落ちた。途中、ライと名乗る少年が逃げる手助けをしてくれた。ゲンライを連れて隣の町に来たリナはグレンの遺体を埋葬した。ゲンライも涙をにじませ、震える声を吐き出す。
「このバカ弟子め!師匠より・・・親より先に逝く親不幸があるか!バカモノ・・・」
ゲンライの悲痛な罵声はリナももらい泣きする。真っ赤に腫らせた目ではなく、黄色く光る目でゲンライに諭す。
「おにいちゃんは立派に戦ったんだよ。バカ弟子なんかじゃないよ。」
ゲンライはリナの目を見てさらに驚いた。千人に一人の黄色眼をグレンだけではなく、リナまで習得していることである。ゲンライはこれにも運命を感じ、口走った。
「リナよ。おまえには全ての動きがゆっくりに見えるであろう。グレンの力がおまえにも宿っているのだ。グレンが命と引き換えにおまえに授けた力だ。」
リナを撫でながら、ゲンライは話す。リナはまだわかっていないようだ。
「リナよ。鏡を見るがいい。」
そういわれてリナは初めて気がついた。愛しい兄弟子と同じ目で自分が自分を見ている。
銃撃が、弱った蚊のように見えたのはこの目の力なのだ。
黄色眼に目覚めたリナは今しばらく修行を重ねる。あれから3年。身をよじって繰り出す回転竜巻を習得していた。
剣を一回転して竜巻を起こすという離れ業は、まさに千人に一人の力である。ゲンライは理論だけしか教えなかった。
もとい、年齢的に手本を示せないのだ。それでも身についたリナは、旅に出ることにした。
「これから、おまえは一人で旅をする。おまえのことだから心配はしていないが、怪我だけはしてくれるな。」
師匠の言葉は18歳のリナにはとても重く響く。
「先生、ボクをここまで育ててくれてありがとう。パパにも挨拶があるので、ボクはもう行きます。」
心なしかしっとりと、それでも相変わらずのコロコロした声で別れを告げた。
オカダの家に赴くが、オカダは見つからない。おそらく例の軍事会議とやらに出ているのであろう。
3年前のオーシャン襲撃以来、4国に囲まれているスカイヤは、いつ付け入られるかはわからないのだ。リナは仕方なく、きびすを返すと、そこにオカダがいた。
「おまえの後姿が見れるとはね。俺もまだまだいけるかな。」
何のことはない、オカダができるせいぜいの親の威厳だ。リナを驚かそうと隠れていた。リナはいたずらっぽい顔で黄色眼を作った。
「パパ、心配しすぎ。」
リナの黄色眼はオカダの心を見抜いていた。
「その目は便利だなぁ・・・。おまえの才能なら伝説が本当になるかもしれないな。」
この伝説とは黄色眼の上位である赤目である。赤目とはかつて、世界中の剣豪を制したという伝説の人物が赤い目をしていたことにちなんでいる。
「どれ、久々に手合わせしようか。」
オカダが手にしているのはかつてリナが使ったおもちゃのように小さな木刀だった。リナが初めて衝撃波を繰り出して見せた木刀である。
リナは素手で構えた。ヒュッと腕を出しただけで小さな衝撃がオカダの胸元に届く。
オカダがハッとするとすでにリナが抱きついていた。スカイヤのエリートが子ども扱いという信じられない成長ぶりだ。
「パパ、行ってきます。」
リナの声はやっぱりコロコロとしていた。ちょっと遊びに行ってくるといわんばかりの口調が返ってオカダの親心をくすぐる。
「風邪をひくんじゃないよ。」
オカダがなんとか言う。リナは旅に出た。
スカイヤ領のとある村にさしかかり、食事を取るが財布を忘れていた。取りに戻ろうとも考えるがまた稼げばよいと、アルバイトを探した。
"メイドさん募集。日払い、即日、オーケー"
リナはこの張り紙に従った。
窮屈なメイド服だった。なにげにいやらしい視線も感じるがリナにはお構いなしである。
料理や洗濯、掃除などを手伝った。昼休みには体がなまるので剣術の稽古をするが、メイドに剣術はいらぬと言われてしまい、リナはこの日を最後にメイドを辞めたのであった。メイドのバイトで食べるには困らぬが、服がボロボロになりつつあった。毎日宿で全裸で洗濯をしていたが、それでは不便だと今更気づいた。
服を持ち歩くにはカバンなども必要だ。それらを求めてリナは仕事を求める。
"山賊を退治せしものに金壱拾万を進呈する。スカイヤ治安局"
今度はこの張り紙に従った。荒くれたちがよくやる腕試しのように数万のやりとりだと踏んだのだ。日当8240円しかなかったメイドよりは大きい。万という文字がそれは保証してくれる。リナの初めての実戦である。
山賊のアジトにはハッキリと新島組と書いてあった。中からいかにも強奪を働いているような声も聞こえる。しかし闇雲に暴れれば証拠が示せない。リナは考えた。
一、火をつける。
二、丁寧に組長に会う。
三、脅してまわる。
しばらく悩むと構成員に声をかけられてしまった。
「嬢ちゃんよぉ、なーにやってんだ?あぶねぇぜぇ?ここはよぉ」
顔も見ないうちにリナの拳がめり込む。顔が文字通り陥没している。こうならないように加減しないと三番は無理だ。別の構成員が駆けつける。
「ガキが生意気ですたい!」
今度はうまく剣を喉元に押し当てられた。物騒な姿でコロコロとあどけない声が一言。
「組長さんに会いたい。」
野蛮な視線が珍しい少女剣士を舐めまわす。リナは見くびられまいとして黄色眼を使った。目が合う構成員が冷や汗と共に視線を落として行く。道案内の構成員もやっとの思いで機嫌をとる。
「せからしか連中はおとなしゅうさせますたい。」
リナにはよく意味がわからない。
くみちょーさんの部屋にたどり着いた。先ほどのせからしか人が案内するのを待たずに部屋をぶち抜いた。剣をつきつけて声高にキリッと言い放つ。
「金、なんとかステ万円のために来てもらうっ!」
組員が一瞬だけ唖然としてから、当然のようにたかるが、組長に剣を押し付けたまますべてあしらってしまう。
剣だけが微動だにせず、リナの体は軽やかに組員を倒していく。黄色眼を開ければだれも手が出せない。
組長はあっさりリナに囚われた。リナは組長の新島をスカイヤ治安局に連行した。
18歳のあどけない少女が、スカイヤを荒らす新島組の組長を縛り上げてその場にいることが、職員には信じがたい話だったが、新島をにらみつける黄色い瞳が不可能を可能にすることを物語っていた。
「お譲ちゃんが黄色眼を使うなんてね。スカイヤの英雄グレンさんを思い出すよ。」
兄のようであり、将来の夫であったグレンの話は今のリナでも少し心に痛かった。かくして10万円を手に入れたリナは、服を買い揃え、武器も新調して新たな旅路についた。
作品名:無敵最強絶対不敗伝説 作家名:peacementhol