無敵最強絶対不敗伝説
(・・・この子が後輩?ゲンライ先生に習っているボクについてくるというのか・・・)
「リナ、さっそくこの兄弟子のグレンと手合わせしてみなさい。これを使うんだ」
手渡されたのは、軽いが形が真剣によく似た木刀である。これなら、先ほどの衝撃も繰り出せる。
リナとグレンは距離を取り剣を向け合った。
よたよたの構え方だが目だけはしっかりグレンの目を見据えている。剣先を小刻みに動かしてもごまかせる相手ではない。それを見切ったグレンはリナを初心者として見てはいけないことを悟った。
リナはつんのめるように片足を踏み込んだ。グレンがとっさに防御の姿勢に移る。だが、リナはその場で剣を振り下ろした。
地面をものすごい速さで衝撃波が襲ってくる。グレンはとっさに身をひるがえし、軌道からずれた。よけた先にはリナがいた。剣を使いこなせていないがゆえに、グレンはとっさの受けが間に合った。
ガキィとぶつかると、とても重い。グレンは押し返せずに弾くことにした。
剣道を知らないリナは、この戦いにおいて、蹴りを放った。膝を曲げて足の裏で押し付けるように蹴るが、一瞬の溜めから一気に放出するような蹴りである。
グレンの体には届かない蹴りだったが、グレンは弾き飛ばされた。
足から、切ることはできないながらも衝撃波を繰り出したのである。もはや手加減のできぬグレンは、目を閉じ、一瞬だけ、気合を込めた。その瞳は黄色く輝いており、見るものを圧倒する。
「ほう、黄色眼(きいろがん)を使うか。グレンに黄色眼を使わせるとはな。」
ゲンライも驚いたが、それ以上に驚いたのはオカダである。黄色眼とは、千人に1人が持つという特殊能力である。数段上の相手をも圧倒して勝利を呼び寄せる力である。これが出たということは、グレンがシラフでは、リナに敵わないと悟った証拠である。
「衝撃波の使い方を教えてやる。」
グレンはそう言い放つと、剣と足を使って目に見えるほどに鋭い衝撃波を打ち出した。
リナはそれらを懸命にかわし、同じ技で打ち消すという離れ業まで見せた。しかし一夕の長は埋められない。
リナは受け止めた剣の衝撃に吹き飛ばされ、体勢を立て直す前にグレンにつめよられた。
「気絶させるはずが、一本ですんでしまうとはな・・・」
グレンが半ば驚いて言う。ゲンライもオカダも驚きを隠せない。千人に1人の天才を相手にど素人のリナがそれなりに渡り合ったのだ。黄色眼とはそれほどの威力を秘めている。
オカダは幼いリナを住まわせることはできないので、ゲンライの道場に通わせることにした。
リナが15歳になった。5年間ですでにグレンを越えるほどになっており、黄色眼を使うグレンと打ち合いをするほどに成長していた。ゲンライがリナに宿らせた技には無限突きという技もある。
目に見えぬほどの速さで猛烈な突きを叩き込む技だ。二刀流で両方の手でこなせる人間は滅多にいない。
覚えた方も覚えた方だが、リナはさらにグレンの繰り出す無限突きを見切り、剣で弾いてしまう。リナの能力はゲンライも想像し得ないものであった。
「先生、ボクのお稽古を手伝ってくれませんか?グレン兄ちゃんと先生の二人分の攻撃をさばくやつ。」
ゲンライ自身もこの訓練に何度もつき合わされている。グレンともども、さばくどころか勢いあまってのカウンターがかわしきれず、木刀での訓練なのに二人して刺し傷がたくさんできているのである。
「リナの稽古で黄色眼禁止は甘すぎます。師匠、今回は黄色眼をお許しください。」
絆創膏だらけのグレンがなかばやけくそで言う。
「そうだな。リナの成長ぶりならばそれで十分かもしれないな。」
ゲンライとグレンが構えてリナを囲む。リナは両手に木刀を握って、構えた。
ゲンライとグレンの二人がかりの無限突きがリナを襲う。リナは両手を鞭のごとく振り回して全てを受け流していく。3秒間続いた。ゲンライもグレンも息が上がっている。
リナには余裕があった。黄色眼と、スカイヤ最高峰の師範。二人の攻撃をさばいても息一つ乱れないのだ。
ゲンライもグレンもこの強さにはもう頭が上がらなくなっており、リナの成長に必要なことといえば学問ぐらいなものだ。グレンは照れを隠しながらゲンライに話す。
「こんなに強くても毎晩人の布団にもぐりこんでくる子供です。これからは学問を鍛えてあげるべきでしょう。」
グレンはなんだかんだでおにいちゃんと呼ばれることにも、ベッドに入り込んでくることにも強力な照れくささを感じていた。
「今日も伝説の赤目になっておるぞ。リナにはまだ早い教育をしてはおらぬだろうな?」
グレンはこれには何も言い返せない。リナの忍び込みは無垢でかわいらしいものの、年齢的にも異性を意識する年頃である。グレンは実を言えば教育するまでもなく、逆に教育を施されていた。
「先生。ボクたちは将来結婚するんだから、早くもなんともないよ。」
リナが堂々と言い放つ。コロコロとした声であどけない顔で言ってるにもかかわらず、すでにオトナの顔つきだ。
ゲンライは複雑な表情でせめてもの抵抗という具合に声を絞り出す。
「まったく、色恋沙汰をしながら極められるほど剣は甘くないのだ。若いからといって・・・」
ゲンライは剣術の師匠としては、色恋沙汰を止めるべきだが、二人を幼少から育ててきた身としては、睦まじい二人の結婚式すらも視野に入れており、二人の間に子供ができれば自分が祖父になったつもりでやはり剣術を教えるつもりでいるほどであった。
「今日は昼までの訓練じゃ。町の腕試しは荒らすでないぞ」
このセリフも二人にとっては、気をつけてデートしてこいという意味である。町では、旅の腕自慢が、自分を倒せば大金を献上すると、無類の強さで荒くれと腕試しをしている。
リナとグレンは二手に分かれて町を一周する。一緒にいると同じ商売人を2度倒せないためである。こうして稼いだ金は、ゲンライともども生活費とデート代に消えていく。
いつもの落ち合う公園で、本日の稼ぎを数えていると、町の一角から火の手があがった。
リナの故郷、オーシャンがスカイヤに攻め入ったのだ。国境のスカイヤ駐在軍が敗走し、本国に攻め入ってきたのだ。グレンは真剣を引き抜いてリナをかばうように、身構える。
「リナ、これは戦争だ。稽古ではない。はやくゲンライ師匠のところに行くんだ。俺は大丈夫。早く!」
そういう間にも大量の兵士が向かってくる。銃撃部隊もきており、剣士二人とは実に厳しい状況であった。銃撃が襲ってくるが、黄色眼のグレンは的確に危ない玉を弾く。だが、かすり傷のような小当たりはまぬがれない。逆にリナは、グレンの防ぎきれないところまで防ぐという離れ業を見せている。
グレンは薄れ行く意識の中、一瞬、リナが世界を震撼させるであろう未来を見た。
倒れて動かないグレン。リナはそれが目に焼きついた。怒り、焦り、そんな思いがリナを支配する。
体が勝手に銃撃を交わす。気配だけで弾き返していた銃撃がなぜか目に見える。
世界の動きがスローに見える中、自分はそのまま動ける。目が合った敵兵は銃を手放してしまう。
そんなことは構わず、火の海となった公園一体のオーシャン軍を斬って回った。
作品名:無敵最強絶対不敗伝説 作家名:peacementhol