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だうん そのよん

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 こたつの上にあるすきやき鍋の前で、花月と堀内のおっさんが喧嘩しながらも、すき焼きを作成している。うちの家は、日本酒なんてものは飲まないので、どんなものでも料理酒となるのだが、堀内が持ってきたのは、おそらく値段の張るやつだろうから怒るのは無理もない。
 で、まあ、取り成してくれればいいのに、沢野のおっさんは楽しそうに、それを肴にしつつ、勝手にお湯割りの焼酎を飲んでいたりする。

・・・・もう、ほんま、あんたら、自由すぎるやろ・・・・・

 俺が、これぐらい弱っているということは、俺の旦那も、同様に弱っているわけで、今日は、さっさと寝るつもりで帰って来ただろうから、接待なんてさせて、ほんま申し訳ないと思う。とはいえ、俺は長いことは立ってられへん状況なので手伝うことができない。





 沢野のおっさんがやってきたのは、小一時間ほどしてからだった。転勤して五年以上経っているとはいえ、昔から、こっちで、ぶいぶい言わせてたおっさんやから、知り合いのとこで、料理を用意させたらしい。紙袋からタッパーを引っ張り出して、「レンジで温めてや。」 と、堀内のおっさんに差し出している。
「みっちゃん、ふぐぞうすいやったら食べられるやろ? 」
「また、そんな高そうなもんを・・・・・・それ、温めんとくれ。」
 徹底的な猫舌の俺は、湯気の出るものは苦手だ。まだ、冷めているほうがマシというものだ。それを知っている堀内も、そのまんま、そのタッパーを渡してくれた。
「堀内、わしらのもあるで。」
 当たり前やろうと言いつつ、堀内のおっさんも弁当を渡されて、それを開いた。ご丁寧にお茶まであるのが、さすがというところだ。
「この間は、元気そうやったけどなあ。風邪か? 」
「まあ、そんなとこやろ。」
「しかし、おまえも律儀ななあ。言うて、すぐに来てるとは思わへんかった。」
 だが、この様子では料理なんてできないだろうと、沢野のおっさんも、よしゃいいのに、余計なことを言う。
「せやから、あのあほにすき焼きしてもらおうと思たわけや。材料は買おて、来てくれたんやろな? 」
「もちろんや。酒も用意したし、わしも参加させてもらうで。」

・・・・・いや、あんたら、大概にせいよ・・・・・

 俺は、沢野のおっさんの言葉に喉を詰まらせた。堀内だけでも、性質が悪いのに、さらに、沢野までおられたら、俺、監禁されるに違いない。
「ぐふっげほっ・・・・おい、おっさんら・・・・」
「まあ、しゃーないか。材料そっち持ちやしなあ。」
「おい、堀内のおっさんっっ、勝手に決めんなっっ。」
「ありゃ? みっちゃん、顔赤いで熱あんのと違うか? 」
 咽ている俺を見て、沢野のおっさんは、すちゃりと携帯を取り出して、「風邪薬と毛布とテンピュール枕持ってこい。」 とか叫んでいる。ついでとばかりに、堀内が、「それから、ビール一ダース追加じゃっっ。」 と、沢野の携帯に叫んでいる。
 人の話をきかないおっさんたちは、ほんま性質が悪い。メシを食い終わる頃に、風邪薬と毛布となんちゃら枕とビール一ダースが届いた。
「とりあえず、熱やったら、これで治まる。・・・・おい、堀内、宴会は何時からや? 」
「せやなあ、七時かそこいらやろう。」
「ほな、わし、用事片してから、もっかい来るわ。・・・・みっちゃん、アイスクリンでも買おうてきたるからな。大人しいしときや。」
「もう、来んでええ。」
「つれないこといいなや。久しぶりにバクダン小僧の顔も見たいがな。」
 あはははは、と、笑い、沢野は出て行った。堀内が出て行ったら、鍵をかけておこうと思っていた。食べ終わったものを片付けて、堀内が部屋を出たので、また、えっちらおっちらと部屋の外へ顔を出したら、こたつに寝転がっている堀内がいた。

・・・・え?・・・・

「仕事は? おっさん。」
「なんや、みっちゃん、寂しなったんか? 」
「ちゃうがな。おっさんかて仕事あるやろ? 」
「わしの仕事は、待機。今、絶好調で、ツボやからな。くくくくくくく・・・・・あれは売るで。」
 堀内の言葉は、わかりにくいように喋っているが、長年付き合えば、それが意味しているものはわかる。たぶん、店長たちは、店の金に手を出した。というか、出すように唆されたに違いない。売るというのは、穴を開けた金の代わりに、闇金から本人名義で借金をさせて返済させることを指している。返済方法は、様々だ。マグロ漁船に乗せられるという比較的温厚なものから、臓器売買、戸籍売買、借金の額によって、それらは変わってくる。売るというのは、本人を売るという意味なのだ。
「俺には関係ない。」
「せやな、おまえには関係ないわ。始末がつくまでは、好きにしとったらええ。来月の中ごろには、どうにかする。」
 売られる人間が可哀想だと、俺は思わない。売られる理由があるからだ。善良な人間だろうが悪人だろうが、ひっかかるほうが悪い。それだけの金を使ったのは、紛れもなく当人だ。それを返済するのは当然のことで、使った額に見合う売られ方をするのだから、それで妥当な罪だと言える。
「俺は仕事辞めた。」
「おまえ、ただいま、無断欠勤扱いにされてて、罪全部ひっかぶらされるみたいやど? 」
「そうか。ほんなら、俺を売るか? 」
「ははははは・・・・ほんま、おまえはおもろいわ。おまえをソープに沈めたら、花月のあほが、今度こそ、ほんまに、わしを殺しにくるやないか。おっとろしいことを言うな。」
 わかっている。堀内は、そんなことはしない。ただし、俺が強情を張れば、俺もひっかけて始末するという脅しも含んでいる。
「俺、花月のためにできることしたいだけなんや。」
「したったらええがな。・・・・廊下に転がるなよ、みっちゃん。」
 ずるずると引きずられて、こたつに放り込まれ、枕と毛布も置いてくれた。午後の娯楽テレビの音を聞きながら、俺は、そのまんま薬のせいで眠ってしまった。




 それなりに優秀な小僧だ、と、堀内は知っている。高学歴とかいうことではない。頭が良いのだ。要領がいいとも言う。だいたいの仕組みを教えれば、それで、適当に仕事ができるのが、その証拠だ。ついでに、縁故がないのも、堀内には有難いことだ。何かあっても、水都の始末さえつければ、表に漏れることはないからだ。そう思って、仕事を叩きこんで、この業界での暮らし方も教えたつもりだ。他人と深く関わってはいけないのが、大前提の、この業界の水は、水都には合っていた。

・・・・それが、よりにもよって、男と所帯を持つとはなあー。おっちゃんでも、想定外やったわ、みっちゃん・・・・・

 それが、何がどうなったのか、強力な縁故ができた。それも、旦那だ。簡単に消すには、このふたりを同時に隠すしかないのだが、運の悪いことに、この旦那には両親がいて、職場があって、社会ときっちりと繋がっているので、おいそれと始末できない。男同士の不毛な関係だから、そのうち別れるだろうと、高を括っていたら、どっこい十年しても、いまだに幸せそうに暮らしていたりする。なんせ、他人にも自分にも関心のないはずの小僧が、『旦那のためにできることをしたい』 と、まで言うのだ。もう、堀内は呆れるを通り越して笑うしかない。
作品名:だうん そのよん 作家名:篠義