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だうん そのよん

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 開口一番が、これだ。名乗りもしなければ、挨拶も、もしもしもない。いきなり、叫んでいるあたりが、堀内のおっさんらしいところだ。
「おることはおるけど、何の用や? 」
 だから、俺のほうも、そのまんま切り返す。
「肉とじうどん作ってくれ。肉は持ってきた。」
「はあ? 」
「沢野に、卵とじうどんしたったんやろ? そしたら、わしは、その上を作ってもらわんとあかん。」
「何があかんって? ていうか、なんで、あんたらに、うどんなんかしたらなあかんねんっっ。」
「おまえの手料理なんて貴重すぎるからやっっ。とっとと、ここを開けさらさんと、騒ぎ立てるぞ。」
 このおっさんは、やる。いくら、人の少ないだろうウィークデーといえど、騒げば近所に迷惑になる。
「ちょっと待っとけ。」 と、叫んで携帯は切ったものの、すぐに走れるわけはない。朝よりはマシだが、ガクガクの腰で歩くというのは、かなりしんどいものだ。えっちらほっちらと玄関まで辿り着き、鍵を開けて座りこんだと同時に、傍若無人な堀内が入ってきた。座りこんだ俺を見て、びっくりしたように、その前にしゃがみこむ。
「具合悪いんか? みっちゃん? 」
「・・・・悪いやろ・・・・どう見ても・・・俺・・・・メシなんか、よう作らへんで・・・・」
 とりあえず、追い返すつもりで、余計に具合悪そうに装ったら、「病院は? 救急車か? 」 と、騒がれる。なぜ、俺の知り合いは、誰も彼も、こう五月蝿いんだろうと、息を吐いた。
「寝てたら治るから帰ってくれ。話は後日でええ。」
「食欲は? 」
「あんまない。」
「あほは? 」
「仕事に決まってるやろ。月曜日やぞ。」
 わかった、と、堀内は立ち上がって、玄関から出て行った。よしよし、と、俺は、そのまんま廊下に横になった。座っている格好が、すでに辛かったりするのだ。しばらく休んだら、匍匐前進で戻ろうと思っていたら、また、扉が開いた。
「おいっっ、みっちゃんっっ。こんなとこで寝るなっっ。どこや? 寝室はどこなんやっっ? 」

・・・・あーもー腹に力が入ったら、シバキたおしたんねけどなーーくそー・・・・

 殴る体力だけ回復してくれへんかなーと、俺は文句を吐きつつ、おっさんの肩を借りて寝室に戻った。そして、おっさんのとんでもない言葉に、余計に疲れた気がした。
「食欲なくても食べなあかんから、沢野にあっさりしたもん運ばせたからな。食べるんやで? 」

・・・・え?・・・・・・

「肉は冷蔵庫に入れとくから、明日また来るわ。いや、晩メシにすきやきしてもらおうか、あのあほにな。」

・・・・うわぁーやめてくれーーー・・・・・俺、花月にやり殺される・・・・・・

 携帯で、「糸こんと春菊と白菜、それから、ごぼうやろ? あと、すきやき麩と、うどんや。ああ? 〆はうどんに決まっとるやろーがっっ。何? 卵とじ? どあほっっ、それは朝じゃ朝っっ。」 と、沢野とすきやきについて討論している堀内のおっさんを眺めつつ、「なんでもええから、こいつを夕方までに帰らせくれ。」 と、八百万の神様にお願いしてみたが、効くわけはないだろう。 




・・・・・太陽が黄色い・・・・土曜にやりゃよかった・・・・・

 月曜日の朝、俺は激しく後悔したものの、仕事には出勤した。さすがに、太陽が黄色いという理由で、仕事を休むわけにはいかなかったからだ。
 迷っているということは、戻っても良いと考えている。当人は気づいてないのだが、やっぱり古巣は楽なんだろう。
 それを考えたら、なんかムカついた。人生投げかけている俺の嫁は、それで自分の身体に無理があっても、わからないというのが、ミソだ。何かあっても、当人は気づかないままで、ぶっ倒れていることだろう。それを気にしてくれる職場なら、俺は構わないのだが、今のところは、それこそ、倒れたまんま放置されていそうで、イヤだ。それを口で説明しても、俺の嫁にはわからない。それが腹立たしくなって、ものすごくえげつない方法でストレスを解消した。久しぶりに、無茶をしたという自覚はある。ついでに、久しぶりに俺の嫁を介護老人にしてしまった。
 起き上がる以前の状態だったから、下手すると熱も出しているかもしれない。今日は、うどんかおじやくらいしか食えないだろうな、と、それについても反省した。いくら専業主夫とはいえ、寝たきりにさせたのは申し訳ない。

・・・・・堀内のおっさんが、迎えに来るんなら、その時に、はっきり確認させてもらうしかないよな・・・・・

 長年付き合いのある堀内には、俺も言いたいことが言えるし、俺の嫁のことも、よく知っているから、状況を説明しやすいだろう。





 うだうだとしつつ、どうにか通常勤務をこなして、帰宅した。うどんは、家に冷凍があるので、それで済ますつもりだ。
「ただいまぁー」
 出て来るわけがないので、ぼそっと呟いて玄関開けたら、いきなり絶句した。賑やかな声とテレビの音が聞こえていた。玄関を締めた音に反応して、足音が近づいてきた。
「おお、遅かったやないか。」
「なっなんで? 」
「おお、バクダン小僧も、立派になっとるやないか。」
「あんた、誰や? 」
 ふたりのおっさんが居間からやってきて、俺の前に立った。片方はいい。知り合いだし、話をしようと思っていた相手だ。だが、もう一方のずんぐりむっくりしたおっさんは、俺の記憶にはない。
「わし? わし、沢野のおっちゃん。みっちゃんの上司や。和菓子は食うたか? バクダン小僧。」
「あーーー先週来たおっさんかぁーっっ。」
「そうそう、みっちゃんが具合が悪いっていうから見舞いにこさせてもろた。あかんで、熱もあるやないか。」
 なんで、玄関先で俺は、見ず知らずのおっさんから小言を言われなあかんねんと思い、そのまんま無視するように、居間へ向かった。
 そこには、ぐったりしている俺の嫁がこたつに転がっていた。
「すまん、あいつら、帰りよらへんねん。」
 見たこともない厚手の毛布に包まれて、片手で拝む様にして俺の嫁は、軽く頭を下げた。ついでに、こたつの上には、うちにあるはずのない卓上コンロと鉄鍋がある。
「熱あんねんて? 」
「たいしたことない。それより、あれ、メシ食うて帰るって言うて居座ってるんや。」
「はあ? なんで? 」
 そして、嫁の説明を聞いて、脱力した。俺の嫁の作るメシ食いたさに、騒ぎになっているというのが、ほんと、おかしい。
「ごめんな、花月。」
 本当に申し訳なさそうな顔をしている俺の嫁を見たら、やっぱり何も言えない。こいつのことだから、帰そうとはしただろう。具合が悪いのに、そんなことしていたとしたら、そりゃ熱も出るというものだ。
「まあ、材料があるんやったら作ったるわ。」
「すまん。」
「おまえは食えるんか? 」
「ちょっとぐらいなら。」
「わかった。お粥さんしたるから。」
 すき焼きなら野菜も入っているし、卵で食べるから栄養はあるだろう。タダの材料なら容赦なく使ってやろうと立ち上がったら、居間の入り口にふたりのおっさんがニヤニヤしながら立っていた。





「何をさらしよるんじゃ、このボケっっ。」
「じゃかましいっっ。うちの家では、どんな酒も料理に使うんじゃっっ。」
作品名:だうん そのよん 作家名:篠義