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だうん そのよん

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元々、その計画は出来上がっていたので、さほど問題はない。場所とシステムさえ移行できれば、人員は、すでに確保してある。
「どないすんのや? 」
 メシを食いつつ、その計画についての細部を沢野と詰めているのだが、それではないほうについての質問を受けた。
「何がですやろ? 沢野さん。」
「とぼけてもあかんで、堀内。どうせ、えげつないことするつもりやろ? 」
 まあ、長いこと一緒に働いている間柄だ。こちらが、やろうとすることも薄々は気づいているのだろう。そして、この男は、それを見越しているのに、確認だけはする。
「いつもの通りにさせてもらいます。ただし、今度は売り払いますけどな。」
「それ、みっちゃんの耳に入ってもええんかい? 」
「はははは・・・・あれが、心優しくなんのは、あのクソバクダン小僧のためだけや。それ以外は、なんの感情もあらへんがな。」
 別に、今までも隠したことはない。戒めるためでもあったが、はっきりと教えてあるし、堕ちて行く人間の経緯を見張らせていたこともある。それでも、顔色ひとつ変えたことはない。
「しかし、わしは驚いたわ。久しぶりに会うたら、えらい表情豊かになっとった。」
 沢野は本社勤務になってからは、ほとんど顔を合わせていない。あの頃の水都は、表情も乏しくて栄養失調で顔色も悪かった。
「そら、あんた、十年もかけてな、せっせと、あれを世話したあほの成果っちゅーもんやろ? ・・・・・色気まで出させよるやなんて思わなんだで。」
 うっすらと頬を染めて微笑む水都など、見られるとは堀内だって思わなかったし、「花月のために、もうちょっとゆとりのある仕事をしたい。」 と、言い出すとも思わなかった。
 十年は長いようで短い時間だ。自分が関わっていた高校生の水都は変化しなかったが、大学生の水都は、花月と関わって劇的に変化した。それを悔しいというよりも、寂しいと思うのが親心というものだ。
「あれはあかんで、堀内。みっちゃんは、梃子でも動かんやろう。」
「わかってるて。せやから、関西統括を組むことになったんやないか。」
 水都が、絶対に動かないと言うなら、関西だけでも任せてしまおうと堀内も沢野も考えた。堀内が仕事を完璧に教え込んであるから、今更、その重圧で潰れることはない。そして、今更、欲に目が眩むなんてこともないだろう。本社では、すでに東海と中部は、統括した部門がある。本来は、本社で、関西も統括するのが筋だが、その責任者が動きたくないというなら、こちらでやってもらえば済むことだ。それに、重要な手駒である水都の地位も、少し上げておきたいという心積もりもある。自分たちが信頼して仕事を任せられる手駒の地位が、今までは低すぎた。それというのも、水都が昇進に興味も野心もなかったからだ。だが、それでは、堀内が困る。専務の子飼いの部下が、ただの平社員では、発言権もないからだ。
 昔のように郵便とFAXと電話だけでのやりとりではないから、インフラさえ整えば、どこで指示を出していても問題にはならない。
「しかし、みっちゃんも強情やな? まあ、それやから、仕事を任せられるんやけどな。」
 強面の沢野や堀内にも、怯えて竦むなんてことはない。はっきりと物を言う水都は、貴重な手ゴマだと、沢野も考えている。だからこその遠征だった。たぶん、水都が辞めたとわかったら、同業種のものが確保しにくることはわかっていた。こちらの手の内を全て知っている年若い水都なら、情報も引き出せるし、即戦力てして申し分ない。そして、金に興味がない。こんな有難い性質の人間を、放置しておくはずがない。どこの企業も、資金運用の人間の選択には苦労している。履歴書や興信所の調査でわかるのは、過去のことだけだ。だから、その人間の本質なんてものを見極めるのが難しい。目の前に金が転がっていれば、どうなるのかということは、なかなかわからないものだ。それが、勤続足掛け十五年で、一度も前借をしたことのない経理がいるとわかれば、どこの企業だって欲しがるというものだ。
「みっちゃんは、動かへんって言うたやろ? あいつ、ああいうとこは計算しよるからな。有給分は、ゆっくりしとるはずや。」
「ああ、そんな感じやったわ。わし、メシに誘たんやけど、お昼ごちそうしてもろた。みっちゃん手作りの卵とじうどんと、バクダン小僧の手作り弁当をよばれたわ。はははは。ああやってたら、みっちゃんも普通の若いもんと変わらへんなあ。」
「え? おいおい、沢野さん、何してくれてんねんっっ。」
 沢野が、思い出し笑いをして、聞き捨てならないことを言い出したので、堀内は立ち上がらんばかりの勢いで詰め寄った。
「未だ嘗て、みっちゃんの手作りなんて、わし食うたことあらへんぞっっ。あんだけ貢がせといて、その恩恵を、沢野さんが横取りって、どういうことや? あー? 」
「そこか? 堀内。たかだか、うどんで、その態度か? 」
「当たり前や、あいつは、料理なんてすることあらへんかったんやっっ。なんでやーーーみっちゃんっっ。パトロンは俺やるんぞぉぉぉぉ。」
「堀内も行ってきたらええがな。どうせ、しばらくは、こっちにおんねんから。なかなか手際ようしてくれたで。」
 凄んで叫んだところで、沢野も慣れたものだ。いけしゃあしゃあと言い放ち、冷酒をくいっとあおって笑っている。沢野は、関西統括部門のためだけに動いているが、堀内は、少し私情が入っている。十五年も育てた子飼いの水都は、もはや身内の気分であるから、堀内も、いろいろと水都にだけは甘い。今回も、本社へ移動させるべきところを、関西へ統括部門を作ることにしたのは、動かない水都のためだからだ。






 「すまん。悪かった。」 と、いう言葉が聞こえたが、怒鳴り返す気力がなくて無視した。日曜の午後から、同居人がもよおしたらしく、いきなり始めてしまったのは、別にかまわないのだが、何か興が乗ったらしく何時間も耐久レースのようなことをやられてしまい、こっちの腰が壊れた。そろそろ若くもないので回復が遅い。
 朝になっても、動くのが難しいというのは、どうなんだ? という状態だ。専業主夫だから、取り立てて急ぐことはないが、これだと、トイレに行くのも辛いもんがある。
 朝から、トイレまで運んでもらい、ついでに、食事もさせてもらったから、当座は寝ているしかない状態だ。

・・・・あれか、沢野のおっさんか? 原因は・・・・・

 怒りの琴線に触れたとしたら、沢野のおっさんの来訪だろう。元の職場からの復帰要請が気に食わなかったのか、はたまた、余所の男が、ここに来たことが気に食わへんのか、どちらかは判らないが、まあ、そんなところだ。

・・・・沢野のおっさんで、あれやったら、堀内のおっさんが来たら・・・俺、やり殺されるんやないやろか・・・・・

 そんなことを、つらつらと考えては、眠り、また、考えてと、自堕落なことを繰り返していたら、呼び鈴の音がした。それから、枕元に置かれていた携帯が震える。相手は、堀内だったのが、笑える。噂なんてするもんじゃない。
「「おい、みっちゃん、家におるんやろ? 」」
作品名:だうん そのよん 作家名:篠義