秘密
荷物を手に駅までの道を歩いていくと、前から喪服姿の女性がやってくる。自然とその人に目が行き、視線が合わさるとその人は驚いたような表情をして「小夜子」と呟いた。
「母のお知り合いでしょうか」
何故か私はその人に話しかけていた。普段なら素通りしていただろうに、あの手紙を読んで感傷的になったのかもしれない。私に話しかけられたその人は慌てたように目をしばたかせ、改めて挨拶をしてきた。
「あ、失礼しました。あんまりお母様によく似ていらっしゃったから。私小夜子さんの古い友人で高橋と申します。このたびはご愁傷様でした」
その姓にはっとしたが、「高橋」なんてありふれた姓だし、変わっていることの方が多いのだと思い、気を取り直す。
「いえ、こちらこそ失礼いたしました。わざわざ足を運んでくださり、ありがとうございます」
「たまたま友人と話す機会があってお母様が亡くなられたと聞いたものですから、お葬式に間に合わなくて申し訳ないとは思いながら、ご焼香だけでもと伺わせていただきました。これからおでかけですか?」
「いえ、自宅に戻るところなんです。家には父がおりますのでどうぞ焼香してやってください」
「あら、こんなところで足止めしてしまって悪かったかしら。ごめんなさいね。それじゃあ、失礼します」
会釈をして立ち去ろうとするその人を私は再度呼び止めていた。
「あの。母とはどういうお知り合いだったんですか? もしよろしければお聞かせくださいませんか」
私の不躾な質問にその人は嫌な顔一つせず、もう一度向き合うとにっこりと笑った。