秘密
「あなた、見た目はお母様そっくりなのに、中身は違うのね」
「す、すみません。失礼とは思ったのですが」
「いいのよ。私とあなたのお母様とは高校のときのクラスメイトだったのよ。ずいぶんよくしてもらってね、でも喧嘩してそのまま私が転校してしまったものだから、喧嘩別れみたいになってしまって。それ以来会うことも無かったのだけれど、本当にたまたまその頃の友人と会う機会があってお母様の事を聞いたものだから、こうしてのこのこ顔を出したってわけなのよ。あの人のことだから今更なんだ、って怒られちゃいそうね。お葬式にも間に合わなかったし」
その快活な話し振りに、私はこの人があの手紙の主だと確信した。死してようやく再会を遂げられた二人に声が詰まりそうになった。
「いえ、きっと母も喜ぶと思います。どうぞ会ってやってください。呼び止めてしまってすみませんでした」
「こちらこそ、長々と話してしまってごめんなさいね。それじゃあ、失礼します」
立ち去るその人の後ろ姿をしばらく見送って、私もその場を離れた。鞄の中にある母の手紙は渡そうとは思わなかった。あれは、母が生涯守り続けた秘密。私が勝手に暴いていいものではないのだ。駅に向かう道を踏みしめながら、母の秘密を今度は私が一生守る決意をしていた。