秘密
私が家を出るまで、母とは対立ばかりだった。家を出てからは顔を合わせることすらしなかった。葬式で涙を流すことも無く、親孝行らしいことなど一つもしてこなかった。そこに罪悪感など少しも湧かなかったが、母の秘密を秘密のままにしておいてやることくらいしてやってもいい気がした。
私はそれらの手紙を元通り封筒に入れ、古びた小箱に納めると誰の目にも留まらぬよう母の衣服にくるんだ。出していた他の遺品も元通り押し入れにしまうと、衣服にくるまれた小箱を持って自室に戻った。
「それ、持って行くのか」
鞄にそれを詰め込んでいると、いつの間にか入り口に立っていた父が話しかけてきて、一瞬びくつきそうになるのを堪え平静を装う。
「うん、これだけね」
「そうか」
「じゃあ、もう帰るから」
「ん。気をつけて帰れよ。たまには顔出せ」
「……うん」
最後に母の仏壇に線香をあげると元の生活に戻るべく実家を後にした。