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秘密

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『水野小夜子様

 先日私の言ったことが小夜子の気に障ったようだけれど、少し言葉足らずだった気もするのでその弁解と、自分の気持ちをまとめる意味もこめて、久しぶりに手紙を書こうと思います。

 小夜子の言うように私たちは真逆の性格です。それでも私は小夜子と一緒にいる事が楽しかったし、自分をより良くできる時間を過ごせたと思っています。そんな時間がいつまでも続けばとも思いますが、私たちはまだまだ子供で、卒業後どうなるかもわからず、また自分の意思とは無関係に、唐突に、その時間を奪われてしまうことだってあり得るのです。

 だから「今」を生きる事に全力を尽くしたいのです。明日のことを考えて力をセーブするようなことはしたくないのです。そして私がそうであるように、あなたにも「今」の私をあなたの心に焼き付けて欲しいのです。明日のあなたが同じように思わなくても、その瞬間瞬間にあなたの心に何か響くものがあればと願ってやみません。もちろん決して将来のことを軽んじているわけではありません。自分の将来のためになることであれば、私はやはり全力で取り組むでしょう。

 願わくは、今の私があなたの一瞬を奪えますよう。

                                   高橋涼子』


 最後の一通はそれまでとは明らかにトーンが違っていた。おそらくこの手紙が書かれてから何十年も経っているにもかかわらず、その熱気は私にまで届いてきて私の心を揺さぶった。まるで、そう、まるで恋文のようだと思った。

 この手紙に対して母は一体どのように返したのだろうか。もしやこの封のされた、母から高橋涼子なる人物に宛てた手紙がその返事だったのであろうか。ならば、何故渡さなかったのか。好奇心がもう何十年と封印されたままの母の手紙を開けさせようとする。しかし、きっとこれには母が一生捨てきれなかった、そして封印したかった想いがこめられているに違いない。それを私が開封してしまうのか。


作品名:秘密 作家名:新参者