秘密
『水野小夜子様
今日の映画は凄く良かったね。私はすでにまた見たくなっているよ。私はいつも映画は一人で見に行っていたけど、誰かと見に行って感動を共有できるっていうのもなかなかいいね。小夜子を誘ってよかった。
ところで、もうすぐ夏休みだけど、小夜子は何か予定あるのかな。私はお盆ぐらいしか予定がないから夏休み中は暇になりそうだよ。小夜子の予定が空いている日にでもどこか一緒に遊びに行けたらいいな、と思っています。』
『小夜子へ
本当に毎日暑いね。こんなに暑い日にあんな狭いところに詰め込められるなんて、地獄だよ。みんなはよくじっとしていられるものだと思うよ。私には我慢できないし我慢して自分の時間を浪費したくない。
それにしても、さすが小夜子。結構予定が詰まっているんだね。宿題も予定に組み込まれているところもさすがだと感心したよ。私はいつも後回しにしているからね。小夜子を見習ってたまには早めに終わらせてみようかな。
でも、17歳の夏休みはこれっきりなんだから、宿題と家の用事だけで終わらせてしまうわけにはいかないでしょ。どこかで時間作って遊びに行こうよ。』
『小夜子へ
そうか、補習なんてものがあったね。呼び出しを無視しても構わないけど、いちいち面倒臭そうだし、我慢して授業に出ることにするよ。先生達の時間を無駄にさせるのも悪いしね。
それから、遊びに行けそうでよかった。宿題を一緒にやるっていうのもいいね。見張り役がいないと私は怠けそうだしね。どこに遊びに行くかは、そのときにでも二人で決めよう。』
どうやら、この高橋涼子という人物は相当な自由人だったらしい。規律を重んじる母がたしなめている様子が目に浮かんだが、やはりこういう人物と母が親しくなるのは意外としか言いようが無い。私が授業をサボったときなどひどい怒りようで、「私の子がこんなことするなんて」とまで言われたのだから。他人であれば関わりを持たないようにするに違いないのに、手紙から察すると二人は徐々に親しくなっているのだから、謎は深まるばかりだ。