秘密
無駄を嫌い、片付けが趣味のような人だった母の部屋に残っているものは、僅かな服と装飾品ぐらい。どれも私の趣味とはかけ離れていて、持って帰る気が起こらない。それでも少しはましなものがないかと押入れの衣装ケースを物色していると、底の方に古びた小箱を見つけた。
何故こんなものがこんなところにあるのか、疑問に思いながらその箱の蓋を開けてみると、箱に負けず劣らず古びた手紙が数通入っていた。手紙の類は別の場所にまとめてあったはずだし、あの母が服と一緒にうっかりしまいこむということは考えられない。きっと、他の手紙とは別にこんなところに取っておこうとした意味があるのだろう。
一体何を大事に取っておいたのかと興味がそそられ、一番上の手紙を手に取った。封筒の宛名を見ると母の名が旧姓で書かれており、差出人は「高橋涼子」とある。住所や切手は無い。
友人からの手紙だろうか。その他も同じ人物から母に宛てた手紙ばかりだ。その中に、一通だけ見覚えのある字で書かれたものがあり、それだけは宛名と差出人が逆になっている。出しそびれた手紙のようだけれど、何故大事に取ってあるのだろうか。しっかりと封のしてあるその手紙は後回しにして、若干の罪悪感を伴いながらも私は母に宛てられた手紙を読んでみることにした。
『水野小夜子様
手紙ありがとう。こんな風に友達に手紙を書くのは初めてだから何を書いていいのかわからないけど、せっかくだから返事を書いてみようと思います。水野さんのことだから、書き方がなってないとか言って怒りそうだけど、その辺は見逃してください。
この前は付き合ってくれてありがとう。誘い出しておいてこんなことを言うのもおかしいけど、あの映画は私も期待はずれでした。今度はもっと面白いのを観に行こう。来月公開される映画は面白そうだけど、どうかな。
水野さんと学校の外で会うのもなかなか新鮮で面白いから、また遊びに誘うと思うのでそのときはよろしく。』
その短い手紙から書き手の奔放さがうかがえる。正直、母はこういうタイプの人物を毛嫌いすると思っていたからとても意外だった。それにしても、何故こんな手紙を大事にとってあるのか。内容を見る限り、すぐに捨ててしまってもおかしくないものだ。更に深まる謎を解明すべく、私は他の手紙も次々に開いていった。