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秘密

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ある日友人と飲んでいると母の死の知らせが届き、通夜と葬式に出るために十何年ぶりかに実家を訪れることとなった。

 母が病に臥せっていることもどうやら助からないことも以前から知らされていたので、その死は驚くことではなかったけれど、一度も見舞いに行かなかったことを責められることは明白で、それを思うと家に帰るのは気が重かった。

 私は几帳面で神経質な母が苦手で、自分で生活できるようになってからは全く家には寄り付かなくなっていた。見舞いに行かなかったのも自分の気ままな生活にあれこれと口を出されることが嫌だったからだ。

 私が家に着くと、案の定家族から非難の声を浴びせかけられた。覚悟していたこととはいえ、本当にうんざりだ。次にここに来るのは父の葬式のときぐらいだなどと不謹慎なことを考えつつ、小言を聞き流しながら通夜と葬式の準備に忙しく働いていた。

 あまりの忙しさに何の感慨も湧かないうちに、気がつくと葬式は終わっていた。さっさと帰るつもりが、父に「生きているうちに孝行できなかったんだから、せめて死んだ後ぐらい母さんのために働け」とこき使われて、なんやかやと手続きをしているうちに初七日を迎える日まで居付いてしまった。

 法事も終わり、ようやく元の生活に戻れると安堵しながら帰り支度を整えていると父がやってきた。

「何?」
「帰るのか?」
「うん。仕事もあるし」
「そうか」

 そう言ったきり立ち去るでもなく、無言でこちらを見続ける父。

「何か用?」
「母さんの遺品でいるものがあったら持って行け」
「そんなの別にないよ」

 私とは全く趣味の合わなかった母の物で欲しい物があるとは思えなかった。

「いいから、少しぐらい母さんのこと思い出してやれ」

 少し強い口調の父はとても意見を譲りそうもない。

 これ以上言い争うことも面倒臭くて私は仕方なく母の部屋に向かった。


作品名:秘密 作家名:新参者