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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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帰り道を歩きながらも、孝志のことが頭から離れない。

「・・・なんで・・・」

孝志が池野と付き合ってる・・・?

そんなの聞いてない。
孝志が俺には隠してた。
この前、9時前にうちから帰ったのもそれのため。
俺との時間よりも、池野との時間の方が大事・・・?

そりゃあ、そうかもしれない。
・・・付き合ってるんだから。

「・・・でも腹立つ」

自分はずっと我慢してきたのに。
横からかっさらわれるなんて。

・・・わかってる、いつまでも我慢してる自分が悪い。
それでも、もしこれ以上先に進んでしまったら今の関係が壊れるんじゃないか、ってそれが怖くて・・・。

「でも、もう手遅れかな・・・」
ハハハ、と笑ってみる。
目から何かが零れそうになって、空を見るフリをして、上を向いてごまかした。

孝志が本当に池野のことが好きなら、親友として幼馴染としてちゃんと応援してやろうと思った。
いままで通り孝志の一番近くにいれる方法は、きっとそれで間違っていないはずだから。


まずは、話を聞きながら水臭いよって言って笑って・・・。
少しからかってやろう。

それでいいや。
一番の親友。隣にいて当たり前の存在。

ここから離れていきさえしなければ、それでいい・・・。




『孝志ーちょっと数学ヘルプー』
夜の七時過ぎ。
そうメールを送ったすぐあとに、家のインターホンがなった。

部屋のドアが開いて、孝志が入ってくる。
「あ、わざわざ来てくれたんだ」
「俺も英語で司に聞きたいところがあったんだ」 
英語の解説をしてから、数学の問題を聞く。
孝志が言ってる数学のことなんてほとんど耳に入らなかったけど。

「司!」
「え?」
「どうしたんだよ、すごいボケッとしてる。」
「そう?」
「具合悪いのか?」
「ううん、そういうんじゃない」
「何かあったのか?」
「んー・・・・」
曖昧な返事をすると、孝志はそれを肯定ととった。
「放課後、何かあったのか?」
「・・・何かあったのは、孝志の方じゃないの?」
「え?」
「幼馴染が隠し事してるってほど、哀しいこともないよね?」
カマをかけてみた。
わざと嫌らしい言い方で。
「・・・知ってたのか?」
「今日知った。なんだ、やっぱりホントなんだ」
「・・・・」
孝志が黙り込む。
その沈黙の意味を司が理解できるわけがなかった。
「黙ってたなんて水臭いよ。孝志ああいうタイプが好きだったんだ。告白はどっちから?」
「・・・池野」
「へぇ、なんて告白されたの?」
「先週の金曜日に手紙で呼び出されたんだ。それで・・・」
孝志がその後のことを話しだした。
嘘を付けるような性格ではないから、話した内容はほぼ事実どおり。
話を進めていくうちに、どんどん司の顔が強張っていく。

「・・・というわけで、付き合うことになった・・・」
「何それ」
間髪いれずに、そう言った。
「それってつまりは、女の涙と飯田の強引さに負けたってことじゃないの?」
「・・・そう・・なのか?」
「好きでもないのに付き合うなんて相手に失礼だよ。池野のこと、好きなの?」
「・・・好き、なのかもしれない。毎朝早く来て、花瓶の水を替えたり換気をするなんてすごく立派だと思うし。好きになっていけそうな気はする。」
司の前でこれを語ることが、孝志にとってどれだけつらいことかは理解されない。
ここで司を引き寄せて、司が好きだと言ってしまえたらどんなに楽だろう。
甘い誘惑にそそのかされそうになる心を必死に叱咤して、平静を装う。

「へぇ・・・好きになっていけそうな気がする、か。」
司にとっても、孝志の言葉を聞くのは身を切るような思い。
好きな人が、自分ではない好きな人を語っているというのは、こんなにも切ない。

自棄になってみるしかなかった。