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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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9時を数分過ぎたところで、携帯電話のコールがなった。
ディスプレイには池野雅実の文字。

通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『あ、えっと、私、池野だけど・・・。』
「知ってる。こんばんは」
『こんばんは、あの、今、大丈夫?』
「ああ、大丈夫だよ」

電話でとりとめのない話をいくつかした。
司や飯田の話なんかも少しして、電話を切った。

「ふぅ〜」
電話を切って、息をつく。
知らず知らずのうちに緊張していた自分に気付く。

電話を机に置いた瞬間、家の呼び鈴の音がした。

司が来た。
慌てて下におりる。

「司、ありがとな」
「いーえ。雪村なんだって?」
「そんな大した事じゃなかったよ」
「そっか。そんじゃ、俺はこれ届けに来ただけだから」
「司くん、ありがとうね。お母さんにもよろしく。そうだ、もうすこし林檎もっていって。これに使ったぶん」
「あ、ありがとうございます」
林檎を渡して、さっき司がしたみたいに孝志も司を玄関まで送っていって別れた。


それから1週間。
結局、司に池野のことは何も言えないまま過ぎた。

変わったことといえば、毎日のようにする夜9時の30分程度の電話。
それから、朝「おはよう」とお互いに挨拶をするようになったこと。
3年になって、司も一緒に教室に入るようになってからは挨拶を交わしたことはなかったのに。

孝志のこの微妙な変化に司が気付かないわけがなかった。

最も、さすがに核心まではわからなかったようだけれど。

司がそれを知るのは、翌日の放課後。


適当な理由をつけて孝志を先に帰らせた。
ここ最近、隠し事をされてることはわかっているから。
突き止めるために、放課後の男子たちの雑談に入って情報を集めてみようかと思った。

思春期の男子らしく、話題はクラスの女子達の話。

「えー、お前、岸本狙いかよ。断然鈴木の方がいいって!」
「マジで?鈴木かぁ・・まぁ確かに身長低いお前には似合ってるかもな」
「うるせーよ!」
「司は好きな奴いねーの?」
「・・・んー俺は別にな」
「もったいねー。お前のこと狙ってる女子、結構いっぱいいるぜ?俺、飯田なんか怪しいと思うんだけどなー」
「飯田?」
「飯田千香だよ。お前がHR仕切ってるときとかメッチャお前のこと見てるぞ。羨ましいけど、俺、飯田は勘弁だなー」
「なんで?」
「怖ぇって。気強いし、何でもはっきり言ってくるし」
「でも飯田って胸でかくね?飯田にマジでおこられてみてぇな〜」
「でたよM!」
冗談に笑いながら、話は進む。
「俺はむしろ池野の方がいいけどな〜」
「池野っていつも飯田と一緒にいる?」
そう聞くと、無論肯定の返事が帰ってきた。
「それ以外に誰がいるんだよ。なんか守ってあげたくなる感じしねぇ?ああいうの女の子らしいっていうんだよな。飯田なんかとは正反対だ」
「でも、あれだろ?池野って最近岡本と付き合い始めたらしーぜ?」

・・・・・・は?

「岡本って・・・」
「おいおい、お前の仲良しの岡本孝志だよ。まさか、司知らなかったの?」

・・・・知らなかった。
いや、でも俺が知らなかったんじゃなくてこいつの勘違いなんじゃ・・・?

「毎日夜の9時から電話してるらしいぜ。ラブラブ〜♪」
雪村がそう言った。
夜の9時・・・なんとなく聞き覚えのある時間。
1週間くらい前
『9時に電話が来る約束があるから』
そういって孝志は帰っていかなかっただろうか。
でもあの時は雪村から電話が来る、と。

「雪村、先週の金曜日の夜9時に孝志に電話した?」
「え、俺?してないよ。9時といえば岡本のラブラブタイムだろ〜?」
「言い方がやらしーんだよ、バカ」

笑いあっていたけれど、引きつった笑いしか浮かべられていなかったと思う。
それほどに、ショックだった。

「司、どした?」
「ゴメン、ちょっと今日は帰る」
「んだよ、つまんねー。司が放課後、話に加わるなんてめずらしーと思ったのに」
「ゴメン、岸本と鈴木のことは協力してやるから」
「お、それなら許す」
「俺も俺も」
「じゃあね」
「ああ、またな」

友人達に手を振って、教室を出た。