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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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自分の家の前について、向かいの家を見上げる。
2階の部屋は電気が消えていた。

「・・・孝志」

もう、こんなことやめればいいのに。

もう、何もかも孝志に言ってしまえたら楽なのに。

「・・・・司?」
突然声をかけられて、あせって振り向く。
「孝志・・・まだ、帰ってなかったんだ」
「ああ、まあ・・」
あんなの見せ付けられて、冷静でいられるわけがない孝志は、少し遠回りで家に帰ってきたところ。
言葉がみつからなくて、お互い黙り込む。
先に言葉を放ったのは、司。
「あの・・・さ。ごめん」
「別に・・・。司はなにも悪いことしてないだろ」
「・・・でも、何も言わなかった」
全部内緒にしたまま、そ知らぬふりをして過ごしてきた。
「先輩と付き合ってるのは、知ってた」
「・・・そっか、知ってたんだ」
心のどこかでは、孝志が自分たちの関係に気付いてることなんてとっくにわかってた。
でも、孝志には、知ってて欲しくなかった。そんなこと思うなんて勝手すぎるけれど。
「じゃ、さっきの見ても驚かなかった?」
キスしてるところもしっかり見られてたんだろう。きっとあの人は孝志が見てるのを承知でやったんだろうから。
「このへんは近所の人もいるだろうから、気をつけたほうがいい」
「・・・うん」
孝志は、何も言わない・・・。
「あのさ・・・あれ以上のことは何もしてないから・・・」
「なんでそんなこと、俺に言うんだよ」
そのまま自宅へ入っていて、ドアが閉められる。
司はその場に取り残されたまま。

「・・・だって」
好きな人にあんなシーン見られたら、言い訳くらいしたくなるじゃないか・・・。
それは今更いっても届かない独り言。


そして、その日のことを口に出さないのが二人の暗黙の了解となった。

同時に、孝志に学内で会う機会がめっきり減った。
生徒会室にいる時間をずらされているような気がする。
クラスも部活も違う孝志と会えるのは、生徒会室くらいなのに。

顔を合わせるのといえば、惰性でつづいてる朝の登校だけ。
でも、前のように楽しい時間じゃない。
あたりさわりない会話を、お互いに気を遣いながら進めるだけ。

「あー、もう・・・やだ」
そんなことを考えながら、部屋で机に突っ伏す。

顔の下にあるのは、進路希望調査。
国立の文系コース・理系コース、私立文系コース・理系コース。どれを選ぶかによって、3生になったときのクラスが決まる。

きっと今の自分ならば、どこを選んでも誰にも変に思われないだろう。
国立でも、私立でも。理系でも、文系でも。
親も司の選択にはたぶん何も言わない。

経済とか、法律とか、言語とか・・・そういうものは好きだ。
でも、数学とか、物理とか、化学とか・・・そういうものは、教えられればわかるけれど、さらに勉強したいと思うほどには興味を持てない。

選ぶべきは文系。
そんなことは、とっくに知っている。

それでも、選ぶことをずっとためらい続けていたのは・・・。
ずっと一緒にいたいと思っている人が、間違いなく理系を選ぶから。

でも・・・もう・・・。
こんなに避けられてるのに・・・同じ進路を選ぶなんて、迷惑でしかない。

国立文系コースにマルをつけて、用紙を鞄にしまった。

「司ー」
下の階から母親が呼んでいる。
「なに?」
1階へ降りていくと、テーブルにみかんが積んである。
「岡本さんからもらったの。さっき孝志君が来てくれてね」
「え、孝志がきたの?」
「司のこと呼ぼうとしたけど、止められちゃった。勉強の邪魔しちゃいけないからって」
「・・・そう」
「孝志くんに聞いたけど、進路希望調査みたいの配られたんですって?」
「うん、書き終わったけど」
「司のことだから心配ないと思うけど、どのコースにしたの?」
「国立文系コース。孝志はなんて言ってた?」
「私立の理系コースですって。司はきいてなかったの?」
「・・・・・」
「なんとかっていう・・理科大学?みたいなところにいきたいって言ってたから、司が文系を選ぶなら大学からはいよいよお別れね」

理科大学・・・か。

孝志は、俺が文系を選ぶことを誰よりもよく知ってるはずなのに。

一緒の大学になんていきたくないってことか。


次の日の朝のHRで進路希望調査は回収された。
担任の先生の出席簿の上に乗っかって、職員室へ運ばれていく。

結局、孝志の決断を聞いた後も、用紙を鞄から出さなかった。


これでもう、『ずっと一緒に』いられない。



『永久に焦がれる面影』END