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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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小さい公園の中に男子高校生二人がただ立っているというはたからみれば不思議な状況。周囲の目を防ぐための植木もない。
「なんですか」
「・・・公園の寄り道っていったら、こういうことだろ?」
つかまれたままの腕を引かれて、バランスを崩した。行田の胸に倒れこむと、そのままぎゅっと抱きしめられる。
「・・・先輩?」
「秀悟」
「え?」
「そうやって呼べよ、司」
「・・・・」
「たまには、少しくらい俺のこと喜ばせてくれたっていいだろ」
お前が俺のことを愛してないのは知ってるけれど・・・。
それでも、少しくらい・・・。
「・・・秀、悟・・さん」
「『さん』はいらない」
抱きしめた腕を緩めないまま、それ以上文句を言えないように唇をふさいだ。
今までの、どのキスよりも長い時間続く。
生徒会室で行田の引退祝いにと唇を合わせてから、キスは何度かあったけれど、ここまで激しいのは初めて。
「・・・っ・・んっ・・」
息の仕方も忘れて、翻弄される。
口の中で響くちゅくちゅくと唾液のなる音が耳へとダイレクトへ届いた。
「はぁ・・」
唇が離されると、体から力が抜けたのか、司の体重が行田にのしかかった。
「なあ、このままホテル行こうっていったら、どうする」
「・・・それは・・・」
ぼうっとする頭をフル回転させて上手い断り文句を考える。
後ろの方からガサリとビニール袋が鳴る音がした。
司が振り向こうとするが、行田の手が司の頭を抑える。
「俺の質問に返事をしろ」
この短時間では上手な断り文句なんて浮かばなかった。
「・・・すみません。まだ、無理です」
「・・・残念」
司から行田の体が離れた。
ふと、さっき音がした方向を振り返る。

「・・・孝志」

公園の柵の向こうには、幼馴染の姿。

司の呼びかけには、返答しなかった。
先輩に軽く会釈をして、そのまま何事もなかったかのように歩き出す。

「孝志、待って」
背中を追いかけて走りだそうとした司の腕を、再び行田がつかんだ。
「お前さ、岡本のこと追いかけて何いうつもり?」
そんなこと、考えてない。でも、とりあえず行かないと。
「キスしてたことの弁明とか、見苦しいからやめとけよ」
キス・・してたのも見られてた・・・?
「孝志がいること、知ってたんですか?」
「だったら、なんだよ」

―――もういい加減に限界なんだよ。

―――よく、そんな残酷なことできますね。

それぞれの想いは言葉にされることなく、無言の視線が絡み合う。

「・・・帰ります」
腕をつかんだままだった行田の手が離れる。
「じゃあな」
それをいう声音はいつもと全く違わない。
「俺は・・・あなたが何を考えてるのか全然分からないです」

向きを変えて、歩き出した。
公園を出て、振り返ると行田はまだ同じ姿勢で立ったまま。

何も言わずに、歩きなれた道をたどった。