夢見る明日より 確かないまを
5
待ち合わせの場所は、いつも大体同じところ。
いつも先に姿を見せている行田はいったい何時に来ているのかとおもって、今日は大分早めに家を出た。
さすがに30分前には、まだ姿が見えない。
10分まえくらいになってようやく姿が見えた。
「悪い、待ったか?早く着きすぎて駅ビルで時間つぶしてた。着いたなら着いたってメールしてくれりゃあすぐ来たのに」
「今きたばっかりだからいいですよ」
ずっと待ってたなんて、この人を喜ばせるようなことは絶対言わない。
「お前さー、もっと別のコートなかったの?」
最初のころに比べて、この人はずいぶんずけずけ物を言うようになった。
「中学の学校指定のコートで悪うございましたね」
色気もおしゃれのおの字も見えない、だぼっとしたデザインのコート。
「まあ、まあ。怒るなよ」
悪びれなく笑いながらそれを言う人は、もうすっかり寒くなったこの時期でもまだ革ジャン姿。
「今日はコートでも買おうと思って貯めてた小遣いもってきたんです」
「わかったわかった。じゃ、それ終ったらボーリングな。最近体がなまってしょうがない」
高校生の運動不足が果たしてボーリング程度で解消されるのか疑問におもったけれど、ボーリングには賛成だったのでそのまま頷いた。
値段もデザインも納得のいくピーコートを買って、ご機嫌な司だが・・・その後のボーリングで苦戦を強いられることになった。
今も、行田の投げた球が10本のピンをなぎ倒した。これが最後の投球。
「なんでそんなに上手いんですか」
「これくらい普通だろ」
ほとんどがスペアかストライクの人を普通だとは言わない。
一方の司は、やりなれてないせいもあって、2ゲームを終えた時点でストライクとスペアが合わせて5本という決して良いとは言えない成績。
「俺が勝ったんだから、晩飯付き合えよ」
いつも夕飯には家に帰ってしまう司はこうでも言わないと引き止められない。
「わかりましたよ。いま家に連絡します」
母親に夕飯は外で済ますというメールを打って、ボウリング場を出た。
夕飯はいつもの調子で定食屋で食べて、駅へと向かう。
「先輩はあっちでしたよね?」
違う路線の電車に乗るためにいつもなら改札を出たところで別れるのだが・・・
「いいから」
そういって、司の乗る電車のホームへ一緒に降りてくる。
「もうちょっと一緒にいたいから、お前んとこの駅まで一緒に行く」
「本気ですか?乗り換えあるし30分はかかりますけど」
「いんだよ。それに前々からどんなとこに住んでるのか興味あったし」
そこまで言われてしまっては、なにも言い返せなかった。
司の自宅があるJRのマイナーな駅へついたのは、まだ夜の9時前。
住宅街にある駅だからか、休日のこの時間は人気もほとんどなかった。
「え、改札出るんですか?」
出なければ、お金かからないのに。
「どんなとこに住んでるのか見たいって言っただろ」
「もの好きですね」
「愛されてると言って欲しいな」
「・・・・」
「相変わらず、こういうときにはだんまりなんだな」
「・・・すみません」
でも、なんて言っていいのかわからない。
その原因はわかりきっている。
自分はこの人の望む答えを言うことができないからだ。
「謝るなよ」
「でも・・」
「いいって」
駅を出て、すっかり暗くなっている路地を歩き出す。
街頭の光が思い出したように灯る狭い道。
「駅からうちまでも、けっこうありますよ。ゆっくり歩けば15分くらい」
「さすがに家までついていく気はない」
「じゃ、デートの定番で公園にでも寄り道しますか」
「珍しいじゃん。お前がそんなこと言うの」
「ただの通り抜け近道ですけどね」
近道といってもわずかなものだけど。
ひざくらいまでの高さしかない柵をまたいで、公園の砂利の上を歩く。
遊具はブランコと滑り台と砂場だけ。1分も立たないうちに、通り抜け終わってしまう公園。
「松下」
腕をつかまれて、立ち止まった。
作品名:夢見る明日より 確かないまを 作家名:律姫 -ritsuki-