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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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生徒会室で一人で書類作成をしながらため息をついた。
いつから自分はこんな卑怯な人間に成り下がってしまったのか。

生徒会長の行田秀悟といえば、生徒はおろか先生たちまでもが一目おく存在。
一人で生徒会の腐敗を一掃し、権力の建て直しをはかっている。
そして、それはいまのところ概ね成功を収めていた。
あとはこの建て直しをきちんと受け継いでくれる後輩さえ入ってくれれば完璧。

そして生徒会に入ってきたのは2人。
このうちの一人、松下司に興味を持ち始めたのはいつだっただろうと思う。
最初に会ったときからかもしれない。
気丈な瞳とそれとは逆の屈託のない笑顔。
溢れんばかりの責任感とリーダーシップにも好感を持った。

でも、最初から、岡本との微妙な関係性にはなんとなく気づいていた。
お互いに手を出したくても出せないような・・・そんな空気がある。
そう時を置かずしてこの二人は付き合い始めるだろうと思ってた。
だから、俺は我慢した。
自分を抑えて、二人が付き合い始めるのを、待った。
待って、待って、待って、・・・それでも二人は何も進展しない。
松下をせっつくために岡本に色々とちょっかいをかけてみても、何も言わない。

そして、起こった新聞部の事件。
俺は岡本が小沢さんに殴りかかるのを止めたけれど、たぶん岡本がそうしていなかったら俺がそうしてたかもしれない。
あの後、生徒会室に戻って、少し話をした後は先に帰ってやった。
これで、あの二人もまとまるだろうって、そう思って・・・。
欲しいものを諦めるのは慣れていたから、大丈夫だと思った。

でも、我慢をし続けるには、やはり限界がある。
あの事件の後も、二人の関係は全く変わってなかった。
もう、我慢はできなかった。
松下を手に入れるためにはどうしたらいいか。
その解を出すための計算式が俺の頭の中を渦巻き始めた。
その計算式は正面から向き合っても解けることはない。
結局、俺がその計算式で使ったのは『岡本を引き合いに出す』というなんとも卑怯な解き方だった。

実行に移すのは、翌週の定例会。
それまでは、心を落ち着けて様子を見ようと思った。

そうして、わかったことが二つ。
一つは、なんともバカらしいことだが、松下は岡本が俺のことを好いていると勘違いしているらしい。態度があからさまでわかりやすすぎる。
二つ目は、これは何となく前から思っていたことだけれど、岡本は自分よりも優秀な幼馴染に引け目を感じている。

この二つの事実の使いようによっては、上手くいくかもしれない。
そう思って、定例会で『名前で呼び合うのをやめろ』と言った。
本当は、名前で呼ぼうがどうだろうがかまうことはない。
けれども松下は過剰に反応した。
今の関係を崩されるのがよっぽど嫌だと見た。
そして俺は、岡本の誘導尋問へと話を移す。
言わせたい言葉を上手く言わせて、松下の誤解をあおる。

逃げるように松下が生徒会室を出て行ったのはすぐ。
予鈴がなって、岡本に『先に教室に戻っていろ』といって、生徒会室を出た。

そこから先は・・・たんなる恐喝みたいなもんだ。
自分でも最低な告白の仕方だと思う。
でもそうするしか欲しいものを手にする方法がなかったんだから、仕方ないじゃないか・・・。

欲しいものを諦めるのは慣れていた。
それでも、諦め切れなかった。

手に入ったものをこれからどうするかは、まだ決めることができない。

あの二人の誤解がすべて解けたとき、俺はあの二人の中でどういう位置づけをされるのかが少し怖い。
きっと今まで通りではなくなってしまう。
最悪な人間だと詰られて、今度は俺が生徒会から追い出されても文句は言えないな、と思う。

つかの間かもしれないし、もしかしたら・・・ずっと続くかもしれない。
あの二人の誤解が解けるまでの蜃気楼のような関係。
それでもいいかもしれないと思った。

もちろん、蜃気楼が現実となればそれ以上のことはない。
松下が、こっちへ振り向いてくれれば、それ以上のことはない。
でも、松下が岡本を見る瞳を見ていると、そんなことは考えるのもバカらしいくらいにありえないことのような気がした。

それでも、蜃気楼でもいいから、泡沫の夢でもかまわないから、望むものを手にしてみたい、と。
そう願うくらいに俺にとっては松下司は大きな存在になっていた。