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律姫 -ritsuki-
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夢見る明日より 確かないまを

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11

孝志が生徒会室を出た後、教室には微妙な空気が流れていた。
孝志が出て行った瞬間、司の怒りは風船が割れたかのように、勢いをなくした。
「司・・・?」
尚樹がそう声をかけるが、司はドアの方を見つめたまま、ぼんやりしている。
「・・・尚樹、嫌なことがあったとき一番先に見たくなる人は誰?」
「はあ?・・・まあ、俺やったら司や孝志の顔やろな。多分一番好きで、それでいて頼れる人の顔が見たくなるんとちゃう?」
「そう、だよね・・・」
司の顔が今にも泣きそうに見える。
「司、どないしたん?小沢にひどいこと言われたん?」
「俺じゃないよ、言われたのは、孝志の方。今朝だってさっきだって、もともとの原因は俺なのに、いつも傷つけられるのは孝志の方なんだ・・・なんでだろ」
滅多にない司の泣き言のような言葉。
「なんて言われたん?」
「もう金輪際、俺たちのことを記事にしないでほしいって言った。そしたらタダじゃダメだって言われたよ。だから、一万歩譲って何か要求呑んでやってもいいと思った。そう言ったら、あの人、孝志が一度一緒に寝るっていう条件ならいい、って言ってきた」
何もコメントが帰ってこなかった。絶句してる。
「それで、なんて?」
「冗談じゃない、って言って飛び出してきた。メアド書きなぐって、それ以外の条件を思いついたら連絡してください、って」
「さすが司、それだけでも孝志は救われたんと違うの?」
「わかんない、そんなの。それでも・・・孝志は今、好きで頼れる人の顔を見に行ったんだよ」
「それって、もしかして生徒会長?」
「そう」
「孝志がそいつのこと、好きなん?」
「多分ね。直接聞いてはいないけど態度見てればわかるよ。今まであんなに孝志から好かれた人なんて他にいない」
「そうなん・・・?俺は、見てないからなんとも言えんけど」
「そうだよ、ほぼ間違いないと思っていいよ」
そう言う司の声はどこか投げやりでもの悲しい。
「・・・俺は違うと思うんやけどな・・・」
孝志は司のことが好きで仕方がないようにしか見えないのに、なんで気づかないんだろう。
その逆もまた然り。司もこんなに孝志のことを想っているのに。

もしかして、見えないフリをしてる・・・?

尚樹の頭がその考えにいたるまでにそう時間はかからなかった。
この二人のことだから、自分に気をつかってるのかもしれない・・・。
「司、俺は孝志と司が幸せならそれが俺の幸せなんやで?・・・もし、これからなんかあったとしても俺に変に気つかわんといてな」
はぐらかしながら、そう言った。
きっと勘のいい司には何を言いたいのかわかってしまっただろうけれど。
「ありがと。でも、俺の幸せは手に入らないよ」
初めてみるかもしれない悲観的な幼馴染の姿。
いつも自身に溢れて輝いてるだけに、その姿ははかなげに見えて仕方がない。
「・・・司」
「ごめん、尚樹・・・・ごめん」
謝罪を繰り返す司を痛々しく見つめる。
「なんで司があやまんねん・・・」
「俺は・・・誰にも言うつもりなんてなかった、ましてや尚樹に言うつもりなんてなかったんだよ。ずっと自分の胸の中だけにおさめとくつもりだった」
「一人で抱えるのは想う以上に辛いもんなんやで?俺でよかったらいつでも聞いたる。俺に話したらあかんなんて思うことがあかん」
「ごめん、尚樹・・・ありがとう」
いつも自信に溢れていて、自分はなんでもできると思い込んでるようにさえ見える司がここまで自信をなくしてる。
「俺はええんやって。本当に二人が幸せになってくれればええねん。俺は今は相手はおらんけどそのうち相手見つける予定やし。何があっても俺たち3人の関係はかわらんやろ」
尚樹のその言葉に、司が自嘲気味に微笑んだ。
「尚樹は相変わらず優しいね、ありがと」
自分と孝志の幸せは矛盾してしまうから、二人が幸せになるなんてことは無理だけど、尚樹の心遣いは素直に嬉しかった。
「そろそろ、孝志が戻ってくるんとちゃう?」
尚樹の予想は外れることなく、孝志が教室のドアを開けたのは、すぐ。
司はさっきの哀愁を上手く隠し、いつもどおりに振舞っている。
司の努力を無駄にしないために、尚樹も司に心配そうな目を向けるのをやめた。


「新聞部の弱み?」
「それを突き止めれば、俺たちが優位に立つことができるんじゃないか?」
生徒会室から帰ってきた孝志が早速解決策の話し合いを切り出した。
生徒会室に行った後、急に元気になっている孝志を見て、司は気持ちが沈むのを必死におさえる。
「弱みっていったって・・・今のところ情報はゼロなわけだけど」
「・・・そうなんだよな、それが問題だ」
「俺も新聞部の噂は聞かんなあ・・・」
解決策を考え出したはいいが、いきなり壁にぶち当たる。
「それか小沢先輩本人の弱みかな」
「それでも、あの人3年やろ?難しいんとちゃう?」
しばらく沈黙が降りる。
司がいきなり立ち上がった。
「司?」
「どうした?」
二人が驚いて声をかける。
「部活に行こう」
唐突にそういった。
「今更か?」
もう時計は4時半を指している。授業が終わってからもう一時間半、生徒の完全下校までも一時間半だ。
「生徒会で仕事があったっていえば、うちは大丈夫。孝志はどうする?」
「俺も大丈夫だとは思うけど・・・」
「部活の3年生に小沢先輩のこときいてみるよ、何か知ってるかもしれないし」
「ああ、なるほど。俺も柔道部の先輩に何か聞いてみる」
孝志も席を立った。
「俺は先輩に知り合いはおらんから、できるだけ知り合いにあたってみるわ」
「ありがとう、じゃあ部活に行ってくる」
「じゃあな、尚樹」
二人が鞄を持って、教室のドアを開ける。
「また明日やな」
教室を出て行く二人を手を振って見送った。
「・・・司が言うこともあながち間違ってないかもしれんなあ・・」
そう一人ごちにつぶやく。
生徒会室から帰ってきた孝志は確かに元気になっていた。
孝志が生徒会の2年をどう思っているのかはよくわからないけれど、信頼をよせていることは間違いなくわかる。
中学であの二人の関係がどうかわったのか、それがわからないだけに尚樹は今の状況を掴みあぐねている。けれど、生徒会長の出現によってあの二人に何か変化が起こることは確実だった。