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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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10

「さっきからだんまりの君は、岡本孝志くん、だよね?」
「はい、そうですけど」
「君はなかなか僕の好みなんだけど、僕と一緒に寝てみない?」
部活の友達に、ちょっと寄り道してかない?と聞かれるのと同じ口調で聞かれた。
「・・・は?」
一瞬、意味が理解できなかった。
「それが条件かな。僕だって新聞部なわけだからペンを没収されるならそれなりのものをいただかないと」
硬直が最初に解けたのは、司の方。
「冗談じゃないっ!!なんで孝志がっ!」
そう言うと、司は近くにあったペンと紙に何かを書きなぐった。
「俺のメールアドレスです。それ以外の要求が思いついたら連絡をください、失礼します」
「えっ、司っ!」
部室から出て行く司を追いかけるような形で孝志が部屋を出た。
「腹立つ!腹立つ!腹立つ!」
司が一人でそういいながら、教室への道を歩いていた。

責め立ててやろうとすれば開き直られるし。
金輪際記事にいたしませんと土下座くらいさせてやりたい。
記事にしないことを約束させるにしても100歩どころか一万歩譲って何か要求をきいてやるにしたって、あの要求だけは、絶対に許せない。

「司、落ち着けよ」
孝志がそう声をかけてくれるのもほとんど耳に入らない。
司が1組の教室のドアを、乱暴に開けた。
「・・・何があったん?」
開口一番に尚樹がそう聞く。
「腹立つ・・・あの小沢とかいう新聞部!」
「・・・そうとうなことがあったんやな、あの人、様子からして反省しとるとは思えんし」
「反省どころの話じゃないよ。あー!腹立つ。説明するのも腹立つ!」
「別に話したくないんやったら、聞かんけど」
「いや、話すよ。司が」
「俺がっ!?」
司の怒りはおさまらない。
もともと感情的になることの方が少ない人間なだけに、尚樹が面食らっているのがわかる。
目の前に孝志がいることもあいまって、怒りは収まらないのだろう。
「俺はちょっと席をはずしてもいいか?生徒会室にいるから」
司が落ち着くためには、いないほうがいいという判断から、孝志が教室を出て行った。

そして生徒会室のある1階への階段を下りながら、考える。
自分は、どうするべきなのか。
今朝の中傷事件で司も嫌な思いをしてる。
もうこんな思いはさせたくない。どうすればいいのかが、わからない。
今からもう一度、新聞部の部室に行くか・・・・?
そうすれば、もう二度と今朝のようなことにはならない。
・・・それでも、何かほかに選択肢はあるかもしれない。
行田先輩に相談すれば・・・もしかしたら。
司と同じか、それ以上に頭がまわる人だから。

生徒会室の扉をあけると、その人はパソコンに向かって仕事をしてた。
「岡本。どうした、部活じゃないのか?」
「いえ、今日はちょっと・・・」
「具合でも悪いのか?とりあえず座れよ」
椅子を勧められて、素直に従う。
「コーヒー飲むか?」
「あ・・・いえ、大丈夫です」
煮え切らない態度の孝志を行田は不審そうに見る。
「何か困り事か?」
何も答えなかった。
しばらく沈黙が続いて、行田がキーボードを叩く音だけが生徒会室に響く。
「話くらいは聞いてやるから言ってみろ」
その一言で、やっぱり話してみるのもいいかと思った。
「・・・先輩、もし、大切な人への嫌がらせをやめてもらう代わりに、自分がすごく嫌なことをしなければいけない、っていう場合どうしますか?」
「・・・はあ?」
「ほんとに、もしもの話なんですけど」
「よくわかんねえけど。俺だったら断固拒否だな。俺が嫌なことを『大切な人』が喜ぶわけないだろ、断固拒否」
「・・・そうですか」
そこまで自身をもてるのが、すごい。
「それよか、犯人がわかってるんだったら、嫌がらせをやめさせる方法を考えた方がもっと効果的だろ、そいつの弱みを掴むとか」
弱み、か・・・。
「校内の奴なら弱み調べるのくらい協力してやるよ、生徒会の権力つかうことも少しくらいなら許してやるし」
パソコンを叩きながらあっさりそういった。
そう言い切られると、なんかできそうな気がしてくる。
・・・解決策を狭い範囲で考えすぎてた気さえしてくる。
弱みを掴んだり、新聞部の予算を減らす、と脅してみる事だってできる。
「そうですよね・・・そっちの方向で考えてみます」
「ああ、なんかあったらまた言えよ。お前見てると危なっかしくって。お前が犠牲になることは何もないんだからな?」
テストが終わった後、励ましてくれたのと同じ声でそう告げられた。
相変わらず、いい人だ。人に優しくて、才色兼備。 なんとなく司に似てるな、と思う。
自分が好意を持つのは、こういう人なのかもしれない。贅沢な好みだとは思うけれど。
司がいなかったら、この人のことを好きになっていたかもしれないとさえ思う。
「ありがとうございます、もう少し自分で頑張ってみます」
「ああ、頑張れ。そして元気も出せよ」
言われなくとも、もう元気は復活してた。
この人は、言葉の一つ一つに元気を出させる力がある。
「はい、今日は失礼します」
「ああ、じゃあな」
生徒会室を出た。これから教室に戻って、今聞いたことを二人に話そう。
そうすれば、司だって落ち着くだろうし尚樹もきっと協力してくれる。