夢見る明日より 確かないまを
8
今朝から、散々だった。
遠巻きに自分の話をされることがこんなにも不愉快だってことを思い知らされた。
『1組の岡本って、あの?』
『そうそう、生徒会のやつ』
『へぇ・・生徒会に入ったの松下目当てだったりしてな』
なんで孝志が非難の対象なんだ。
あの張り出されたビラでは俺だって同じ扱いだったのに・・・。
気分は最悪。部活に行っても噂が広まってたらやだな・・・。
そう思いながらも、体育館棟へ。途中で通る下駄箱に尚樹の姿があった。
中を整理するみたいにごそごそしている。
1組の下駄箱のところに尚樹がいるのは、ちっとも不思議じゃない、けど・・・。
尚樹がいるのは端の方。出席番号順だから尚樹の下駄箱は2組よりの方にあるはずなのに。
端のほうにある下駄箱って言えば、ア行の人とか・・・。
ア行って・・・岡本孝志?もしかして、孝志の下駄箱?何やってるんだろ。
「尚樹?なにやってるの?」
後ろから声をかける。
「うわっ、司っ!」
大げさに驚くと、下駄箱の中を隠すみたいに、尚樹が立った。
「そこ、孝志の下駄箱じゃないの?」
「いや・・・そんなことは・・・」
隠し切れない嘘をつくときに、尚樹はかならず斜め上へと視線を逸らす。
その癖は、昔から変わってない。
「ちょっと、どいて」
そういって、尚樹の後ろをすばやく覗き込むとやっぱり孝志の下駄箱。
下駄箱の蓋に「岡本」と書いてあるのを確かに確認した。
「うわっ・・あー・・・」
尚樹が煮え切らない言葉を言う意味がわかる。
孝志の下駄箱には、何枚もの手紙や紙が入っていた。
手紙だけなら、ラブレターかと疑ったかもしれない。でも、何も封されていないほうのかみには、ラブレターとは思えないようなインクや文字で何かが書かれているのを見た。
「尚樹、どういうことなわけ?」
この場にいた尚樹はもちろん事情を知ってると思う。
「はぁ・・・やっぱ司には隠し事は無理やなあ。俺かて詳しい事はしらんけど・・・ただ、授業中からこういうもんが孝志の机とか鞄にあったからもしかしたら下駄箱にもあるんやないかと思ったら・・・ビンゴ」
攻撃の手は、やっぱり孝志にいってたわけだ。
「なるほど。それで?」
「孝志ならさっき部活に行かせたから、下駄箱のことは知らんはずやけど」
ちょっと強引に、話を逸らされた。俺が聞いてるのはそんなことじゃないことくらい、尚樹ならわかってるはずなのに。
「違う。犯人の見当は?」
尚樹の視線が、また斜め上にそれた。
嘘付くときとか隠し事するときとか、いっつもそうだ。
「何で隠すかな?」
「いや、本当にこれは今日、孝志と司が部活終えるまでに俺が解決しといたるから、堪忍してや」
「俺は孝志みたいに、説得が通じる相手じゃないってわかってるでしょ?」
「うーん・・・」
本当にこの大阪弁の友人は優しすぎるところがあっていけないと思う。
「いいよ、俺が傷つく結果になったとしても、それを尚樹の胸だけに収める方が俺はつらいから」
そう言うと、尚樹は頭をかいた。
これは、観念した時の癖。
「はぁ・・やっぱ司にはかなわんな。俺はこういう手紙は全部司のファンがしたことやとおもっとる」
「俺のファン・・・?なにそれ」
「この学校って結構校内恋愛が盛んやろ?毎年、新聞部が通称『1年生チェックリスト』なんてものを配ってたりするんやけど、そこに載った1年生は上級生からはもちろん同級生からも注目されるのが常なんやて」
なんていうか、すごい世界だ。
「へえ・・・」
「それで、そのチェックリストに司が載ってたんや。もちろん1年生は能力は未知数やから容姿重視な記事なんやけどな。そのせいで、ただでさえ注目されてるところに、生徒会選挙プラス中間テストの結果。目立つわけやろ?」
それは、確かに・・・。そうかも。
「司の崇拝者までおるらしいで?」
「それはちょっと行き過ぎ・・・」
「俺もそう思うけど。とりあえず今、校内に司の名前を知らん奴はおらん。学年にかかわらず司のことを狙ってる奴もいっぱいおる」
「・・・なにそれ」
「まあ、憧れやな。男子校で潤いのない生活の中、司は今、絶好調のアイドルみたいなもんなんやって。それで、今朝のスクープ騒ぎやろ?人気アイドルのお相手にバッシングが行くのは自然の流れやし」
つまり、孝志がバッシングうけてるのは全部俺のせいってこと?
「・・・なんか、信じがたいけどよくわかった。それだけの情報もってる尚樹を今尊敬してる」
「まあ、俺は黙ってても情報が集まってくる体質やからな」
本当に、尚樹の顔の広さと友達の多さにはビックリする。
「本人に言うことやないけど、司のことよく思ってない奴もおおいから気をつけるに越したことはないで」
「うん、わかってる」
「さて、ほんなら今回のコトの原因となった今朝のスクープ事件の解決に踏み出そうとおもうんやけど」
「もちろん俺も手伝うよ」
プライバシー侵害もいいところ。犯人が見つかったら訴えてやる、って脅してやろう。
「俺も一緒に行く」
突然聞こえた声は、もう振り向かなくても誰の声だかわかった。
「一部始終聞いてた。尚樹にまかせきりで、ほっとけるわけないだろう?」
ゆっくり振り向くと、もう一人の幼馴染の姿。
結局3人で、犯人探し。
作品名:夢見る明日より 確かないまを 作家名:律姫 -ritsuki-