夢見る明日より 確かないまを
6
変化は、その日の昼休みから始まった。
人気のない裏庭に集まって、三人で弁当を広げた。
「しかし・・・なんなんだ、今朝のあれは」
そう呟くのは孝志。
「ほんっとにね。あれのせいで朝からヒソヒソとなんか噂されてるし」
司がそう言ったところで、尚樹の携帯がバイブ音を立てる。
携帯を開いてすぐに、ため息をついた。
「俺んとこにもあれはホントなのかって事実確認の問い合わせが殺到中やし」
「なんか巻き込んだみたいですまないな」
「水臭いこと言わんとき。親友2人のためなら何ぼでも骨おったるって」
携帯の電源をオフにしながら、そう答えた。
「ねえ、尚樹、なんか噂きかない?ここ最近俺らに関係した噂」
顔の広い尚樹なら、何か情報を掴んでるかもしれないという一縷の望み。
「せやなあ・・・耳にしたらとっくに2人に言うとるんやけど。でも何か噂が流れとるとしても、俺が2人と仲良いことは皆知っとるし、俺には言わんのかもしれん」
「そうかぁ・・・」
「最近の行動を見つめなおした方が無難じゃないか?」
「でもあんな嫌がらせされる心当たりなんて本当にないんだってば」
しばらくの沈黙の後に、口を開いたのは尚樹
「・・・もしかして、テストなんとちゃう?」
「テスト?」
「中間で2位になった奴の名前覚えとる?」
「知らない」
「俺も」
「1年6組の安東恵(アンドウ・ケイ)って奴なんやけど、知らん?」
尚樹の問いかけには孝志が首を振って、答えたのは司。
「俺は同じクラスだから顔は知ってるけど。尚樹、知り合いなの?」
「いや、一回見たことあるだけやけど」
「で、その安藤がどうしたの?」
「そいつ、中間テストでは1位確実とか言われとった奴らしいで。国立の大学に落ちて、仕方なくこの高校はいってきたっていう奴らしいしなあ・・・」
「それで、俺が1位をとっちゃったから恨まれてるって?」
「そう考えるのが妥当なんとちゃう?司は同じクラスやん、何かいってきやんの?」
「いや・・・別に。あんまり話したこともないし、そもそも誰かと話してるのもあんまり見たことないな。クラスの奴にはお高くとまってる、とか言われてたけど、もしかしてそういうこと?」
「せやろな。この高校は滑り止めだった、なんて公言してる奴となんて誰も仲ようせんやろ。ほとんど第一志望で入ってきた人間しかおらんような学校やし」
「それは確かに、印象よくないだろうな」
ひとしきり安藤についての話が終わったところで、司が口を開く。
「でもさ、なんか安藤が今朝のみたいな仕返しに及ぶってどうも考えにくくない?本人を見ればわかると思うけど、絶対あんな大胆なことできないって」
「せやなあ。あんなんよりただの陰湿な嫌がらせしそうな奴やなぁ」
そして議論はまた振り出し。
「ところで、あの記事さ、俺らのカンケイがかかれてたよね?」
「泊まってくとかそんなんやろ?」
「そうそう。ねえ孝志、俺らが人に聞こえるようなところで、そういうこと話した場所と時間、思い出せる?」
「さあ・・・でも、『6組の某男子の話』って書いてあったことは、6組か?」
「せやなあ・・」
テストまでの期間に6組であったことを思い出す。
「あ!わかった!あのときだ!テストの丁度一週間前、教室が使えてくって6組で話をしたよね、俺んちで勉強する?って」
「そういえば・・・」
「それなんとちゃう?司、そこでその場にいた奴、おぼえとらんの?」
「まだクラス全員の名前も覚えてないし、そのとき誰がいたかなんて覚えてない。でも、安東はいた気がするな・・・。もう一人二人いた気がするけど」
そう言ったところで、昼休み終了の予鈴が鳴った。
「あーあ、結局なにも解決しなかったね」
5階まで階段を上ったところで別れる。
孝志が1組の教室に入って席に着くと同時に、昼休み終了の本鈴がなった。
作品名:夢見る明日より 確かないまを 作家名:律姫 -ritsuki-