夢見る明日より 確かないまを
5
翌朝、朝練を終えて、5階へと上がっていくと、掲示板の前に人だかりが出来ていた。
「なにあれ?」
「さあ」
二人で一緒に人だかりへと近づく。
「司!孝志!」
後ろから呼ばれて今のぼりきったばかりの階段を振り向くと、尚樹の姿。
「尚樹、おはよう」
「おはよう、今日は早いんだな」
いつも来るのは遅刻ぎりぎりなのに。
「それより…何の騒ぎなん?」
掲示板の前に出来た人だかりをみて尚樹がそう問う。
「さあ、俺たちもいまから確かめにいくところ」
尚樹と三人でそう話していると、掲示板に集まっている人だかりがこっちに注目してざわざわと騒ぎはじめた。
不思議に思いながら掲示板へと近づくと、見事に人だかりが二つに割れる。
「なんだ…?」
掲示板へと近づいて、掲示物を見ると…
『生徒会の副会長と会計 熱愛発覚!?』
と週刊紙みたいな記事。ノートサイズの紙に大きな見出し。
『6組の某男子の話によると、この二人はテスト期間中、一緒に家で勉強し、そのまま泊まっていくようなカンケイだそう。証拠写真はこちら!』
となりには、松下家に入っていく二人の写真が印刷されている。
「…なにこれ」
「俺が聞きたいよ」
「なんや、変な掲示やな。気分悪くなるわ」
尚樹がそう言って、掲示板に張りつけてある紙を引き剥がした。
くしゃくしゃと丸めて後ろへ放り投げる。
その紙は野次馬の一人がキャッチした。
「悪いけど、それ、処分しといてくれる?」
「は、はいっ」
司の言葉に気圧されて、足早に去っていった。
そうなると今までそこにいた野次馬は蜘蛛の子を散らすように教室へと帰っていく。
「…ばかみたい」
「ヒドイ中傷やな…。なんか恨まれることしたん?」
「覚えがない」
「俺も」
3人で黙り込む。
朝から最悪な事態に出会ってしまった。
「とりあえず、そろそろ教室に入るか」
予鈴が鳴り終わって、そろそろ1時間目の先生が教室へと来始める時間。
「うん・・・。じゃあまた後で」
司と別れて、教室へと入る。
ドアを開けた瞬間、ざわめいていた教室が静まった。
尚樹は窓際の席へ、自分は廊下側の席へと座る。
席につくろ、嫌でも周りの会話が多少耳に入ってきた。
「松下司って、中間で一位だった、あの?」
「それ以外に誰がいるんだよ」
「へえ〜、松下ってどんな奴かとおもったら意外と美人だったな。岡本にはもったいないんじゃね?」
「名前出すなよ、本人に聞こえるだろ」
「はいはい。にしても、お泊りってことはもうとっくにイロイロしてるんだろうな、俺も一回松下司くらいな美人抱いてみてぇ」
「お前にゃ無理だろ」
「なんだよ、岡本にできるんなら俺だって・・」
「名前出すなっていってんだろ、バカ」
真後ろでささやかれる会話が耳に痛い。
別にそんな関係じゃないのに、勝手に誤解されて、文句を言われて。
挙げ句の果てには、司を抱きたい?
…振り向いて、殴ってやろうかと思った。
それでもきっと、司や行田先輩ならそうはしない。
ここで振り向いて殴ってしまったら、奴等の言ってる事を肯定するも同じ。
聞こえないフリを貫き通して、耐えるしかない。
ガラガラ、と教室の扉が開いた。
1時間めの先生がやっと来た。
クラスが静まって起立、と号令が掛かる。
授業はいつも通りに始まった。
作品名:夢見る明日より 確かないまを 作家名:律姫 -ritsuki-