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書評集

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ル・クレジオ「モンド」


 「内部」というものは、密度が高く、機能的で、有意義であり、価値が生産されている場所、というイメージがある。例えば細胞の内部では器官がひしめき、それらの相互作用やそこでの代謝によって緻密に生命が維持されていく。会社の内部では社員が役割を分担しながら相互に協力し合い、業績を上げていく。
 それに対して「外部」というものは無秩序で散漫であり特に価値を生まないもののようなイメージがある。仕事に疲れて窓の外を見る。するとそこには膨大な空虚な広がりがあり、外部に点在する事物たち、例えば建物や樹木や山たち、そういうものの布置には何ら必然性がないようにも思われる。そして外部のものたちは特に懸命に価値を生産しない。
 だが、実は外部こそが内部的であるということを知らしめるのがこの小説である。モンドは浮浪少年であり、社会の外部で暮らす。だが社会の外部にある海や船や太陽などの自然、社会の外部に生きる人たち、それらはモンドにとってはむしろ内部のような機能的な価値を持ち、内部のように複雑さや密度を備えている。モンドにとって、社会の外部の自然やアウトサイダーたちは、モンドに固有の価値を付与され、モンドはそれらが「好き」であり、そして詳細な描写が物語るように内部に劣らない密度を持っている。
 そして、モンドにとって内部は全く役に立たない。つまり、町の行政システムは、彼を豊饒な外部から囚われの内部へと連れ去る脅威でしかなく、彼は一度行政システムに連れ去られるがすぐに脱走する。モンドにとって内部と外部の価値は逆転しており、外部の方が内部よりも内部的なのである。
 だが、モンドにとって外部が単純に内部に優先するかというとそう単純でもない。彼は、誰かれ構わず相手をつかまえて「僕を養子にしてください」と言う。つまり、外部の嫡出子であるはずの彼が養子をめぐる法制度という内部に組み込まれることを欲しているのである。
 つまり、内部/外部という二項対立は決定不可能であり、内部が外部に優先したり、外部が内部に優先したり、という単純な図式は成立しない。モンドにとって、つまりこの小説にとっての内部は社会にとっての外部であり、一方社会にとっての外部の象徴であるモンドは養子になることを望むことで内部への希求をのぞかせる。ここにあるのは、内部と外部という差異を生み出し続け、その差異を常に決定不可能にしておくという差延の運動である。

作品名:書評集 作家名:Beamte