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書評集

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ツルゲーネフ「ファウスト」


 この小説でヴェーラは果たして主人公に恋をしたのか「ファウスト」という作品に恋をしたのか定かではない。いや、両方に恋をしたというのが正しい。ヴェーラが母のもとで暮らしていたとき、そこには官能を禁ずる厳しい規律があった。浪漫的なもの、情熱的なもの、そういうものを排して、ひたすら禁欲的に日々の生活を労働のように過ごすこと。その生き方には破綻も破滅もない。それに対して、主人公は空想の世界に生きる男。「ファウスト」も空想の産物。作品の生み出す幻惑と恋愛の生み出す幻惑はどこか通じるものがある。バタイユの言うように芸術体験とはエロスの体験であり、この小説は、作品享受と恋愛が深い所で通じていることをよく示しているだろう。
 だが私はここで疑問を感じるのだ。果たして禁欲的に労働的な生き方をすることが本当に「禁欲的」であるのか。また、虚構や恋愛によって翻弄されるのが本当に「放恣」な生き方であるのか。むしろ、禁欲的に生きることの方が楽で安定した生き方であって、それに対して恋愛や虚構の世界に生きることの方がはるかにシビアなのだ。ツルゲーネフはこのように「禁欲」と「放恣」が複雑な入れ子構造を成していることを暗に示しているのではないだろうか。ヴェーラは実は終始バランスが取れていたのではないだろうか。母親のもとでは禁欲的だが豊かな生活をしていたが、主人公との出会いによって放恣だがシビアな生活をするようになった。ここでは実は何物も獲得されていないし、何物も失われていないのではないか。

作品名:書評集 作家名:Beamte