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書評集

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サガン『ある微笑』


 恋愛の空間は無法地帯である。人が人に恋するのは偶然的であり、恋した者が負け、恋された者が勝つ。人は、誰かに恋されたからといって恋して返す義務を持たないのだ。これが日常的な倫理道徳空間との決定的な違いである。つまり、give and takeの原則が恋愛の空間では成立しない。片思いする者は一方的に与え続け、片思いされる者は逆に何も与える必要がない。これが恋愛の空間の残酷さである。
 ヒロインはリュックとアヴァンチュールをしながらも、結局リュックに愛されなかったことで苦しむ。だがリュックを責めることはできない。なぜなら恋愛の空間では愛し返す義務がないからだ。だが、リュックは孤独であり人生に疲れていて、それは結局彼が誰をも真に愛することができないことに由来すると思われる。真に愛する者から愛し返されてこそ人間は孤独が埋め合わせられるのだ。誰をも真に愛することのできないリュックは、それゆえ決して孤独が癒されることがない。
 リュックは恋愛の空間で勝者であり続ける。それは、何人もの女子を誘惑し、自分に恋をさせるが自分は恋をしないという彼の浮気の仕方から導かれる。だから彼はたくさんの被害者を生み出す。ヒロインもまたその一人だ。だが一番悲惨なのはやはりリュックなのだ。片恋の苦しみは甘美さと隣り合わせだ。自らを消尽する快楽が伴う。それに対してリュックは真の意味で恋愛の空間に参入し、自らを消尽して真の充足を得ることができないのだ。ヒロインが最後にこぼす「微笑」は、ある意味で、真に恋する者が真に恋できない者に対する勝利の微笑とも読み取れる。

作品名:書評集 作家名:Beamte