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書評集

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ブコウスキー「町でいちばんの美女」


 この短編集を読んで思ったことは、ブコウスキーは非常に「楽な」人生を送っているな、ということだった。「楽」というのは、定職につかなかったり、酒と女におぼれたり、といった遊びを満喫しているからではない。私がこの短編集から感じるのは、むしろブコウスキーの遊びのなさであり、自らの人生をゲゼルシャフト的なネットワークに安住させたことによる「楽」さなのである。
 この短編集に出てくる人物は、誰もが原則的に交換可能である。それは日雇い労働者かもしれないし、セックスの相手かもしれない。だが、誰もが誰かの手段であり、それは決してかけがえのないものなどではないのである。ブコウスキーにとって、交換可能でないのは、自分の娘くらいであり、また誰かとまじめな恋愛が始まりそうになるとすぐにそれを避けてしまう。
 つまり、ブコウスキーは、他人がそれ自体として目的となり、他人に無償に自らをささげるというゲマインシャフト的なネットワークから、絶えず自らを逃がし続けているのである。そして、それは自分自身をも何かの手段とし、自分自身をそれ自体として目的とすることから逃げていることでもある。だから、彼には、思索のための思索や苦悩のための苦悩、誰かに対する真剣な愛情、そういう交換不可能な遊びが欠けていて、それは彼がそのような交換不可能な価値体系にはまることで人生の深部に降りてしまうことが面倒だからでもあるだろう。
 ブコウスキーは、現代資本主義が生み出した、何もかもを手段とし、何もかもを交換可能とするゲゼルシャフト的ネットワークの中に自らを閉ざすことで、自らを目的としたり、誰かをかけがえのない目的としたりするゲマインシャフト的な価値体系からは一貫して逃げ続けた。これは、資本主義が生み出した新しい生き方ではあろうし、それを文学として定着させた面白さは尽きない。文学に対する、どろどろしためんどくさいもの、というステレオタイプな定念をいい意味で裏切ってくれて、しかもそれが社会の下部構造にダイレクトに影響されている、という点が興味深い。

作品名:書評集 作家名:Beamte