光
「黙れよ。こー言うキャラになったんだよ。ああ、お前にはわかんねーだろうなぁ。こういう気持ち」
「あー、あー、わかんねーよ、わかんねえ。ナニ、その父性本能っての?まあ保護欲掻き立てられる気持ちはなんとなくわかんだけど。俺が居なきゃこいつ生きていけないんだろうなって言うの」
「逆だぜ、それ」
あはは、と、朔は軽く声をあげて笑った。
「こいつが居なくなって生きてけないのはきっと、俺のほうだ」
月は起きない。朔に頭を撫でられて、一度ぐうっと寝返りを打った。
ぱたんと床に投げ出された小さな手が、本当に紅葉みたいだった。
「俺が、きっとダメだ。今だって人間の生き血啜ってまで生きてても良いんだって思えるのは、こいつがいるからだ。……こいつが居なくなったら俺、生きてく甲斐がなくなる」
何の本だったか、誰が言ったんだか、俺はもう覚えてはいないが、なぜかその時、「人生には光が必要だ」とかいう、格言めいたセリフを思い出した。
俺たちバケモノの人生は無限だ。だけど、光は有限だ。たとえどんな灯りでも、尽きる時は必ず来る。
だから、人間が俺たちみたいなバケモノの光足りえるとは俺は思わないが、朔がその光を人間に求めることを、止めることは出来ない。
「……もっかい確認するけど、人間ってすぐ死ぬぞ。お前は遠からずまた、一人になる」
「解ってる」
「その時泣いて連絡寄越したって、俺は慰めになんかいかねえからな」
「大丈夫だ、そんなことはしねえよ」
「ホントに大丈夫なんだな?」
「くどいな、お前」
俺がしつこく聞いて、朔は笑った。
「短い間でもいいんだ。幸せになってくれるならもう、それだけでいい。だから……俺になんかあったら、月のこと、頼むな」
朔が言って、俺は溜息をついた。
朔がバケモノとして追われ、どこぞの有名な吸血鬼ハンターの餌食になって灰に還ったと言う話を風の噂に聞いたのは、それから暫く後のことだ。