光
「拾ってもらったときのこと?よく、覚えてないけど」
朔のことを、月は後にこう語る。
「ただ、優しそうな人に見えた。朔のことが。それまであんまりそんな人をみたことがなくて、殴られたり、蹴られたりして嫌な思いをする前に、ちょっとでもいいから覚えておこうと思って追いかけた。邪魔にされるのは慣れてたし、それ以外の扱いをされた事もそれまで一度もなくて、だから、朔からおいでって、一緒に行こうって手を出された時は、意味が分からなかった。――……変な言いかただけど、あの時は朔しか見えなかったな。なんか、光みたいなものを見つけたような気がしてた。終わりがわからない、暗いトンネルの中を歩いてて、ふいに出口が見えたみたいな、ああいう光」
そんな屈託ない言葉を、朔がどう言う思いで聞いていたのかは解らない。
その時、朔はただ、そうか、光かなんて言って、月の頭を撫でただけだった。
俺は聞いてて、なんでだか泣きたくなった。
『終わりがわからない、暗いトンネルの中を歩いてて、ふいに出口が見えたみたいな、ああいう光』
人は光になる。
だが、どんなに足掻いたところで、俺たちは決して光になどなれはしないのだということを、あの時あの子はきっと、知らなかったのだろうが。
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