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聖霊学園

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「いつまで喧嘩してるつもり?何で貴文といいグループ長といい誠也を挑発するかなー?」
「お前は『喧嘩する程仲がいい』『いやよいやよも好きのうち』ということわざを知らんのか」
何処からともなく聞こえてくる声に、空気が凍りついた。
「チッ、ったく。僕を馬鹿にするのもいい加減にしろよ糞親父。僕は天才水野瑠璃様だ!!そんなことわざ知ってるに決まってるだろ!?」
牙を剥いてやまない娘に、姿を見せず声だけの父は溜め息をついた。
「……聖霊学園高等部上級クラス第4斑の諸君、我が娘瑠璃含め仕事中だった者もいるだろう。今日学園に戻って来て貰ったのは他でもない、グループ仕事の為だ。詳しいことは我が愚息、瑠音(ルネ)に説明させる」
結局、学園長は姿を見せることなく話をするだけして立ち去ったようだった。
「あぁもう全てがいけ好かない!!何で重要なことは人任せなんだよ糞親父は!!ってか何?瑠音兄ぃ帰って来てるわけ?あーもうほんと調子狂う!!ふざけんな糞親父!!」
その場にはいない一応実の父親に、瑠璃は文句をまくし立てる。瑠音兄ぃ、とは瑠璃の兄の水野瑠音のことだ。瑠音は教師をしている反面、学園の情報屋という立場だ。東に虐めの酷い学校あれば行ってそれとなく調査し、西に喧嘩の多い学校あれば行ってさりげなく調査するという生活を送っている。因みに瑠璃より8つ上の24歳である。
「んだよ俺が帰ってちゃ悪いかー?」
不満そうに叫んで3階から顔を覗かせたのは、スーツを着崩して赤縁眼鏡をかけ、瑠璃よりも色素の薄い瑠璃色の髪の、ほんの少し長めのふわふわした毛先をちょこんと頭の後ろで赤いゴムでくくった男だった。
「げっ、瑠音兄ぃ…」
「んなあからさまに嫌そうな顔すんなよなぁ。せっかく協力してくれる、っていう心優しい後輩くんたちが来てくれた、ってのに」
「は?」
後輩が、何だと。
聖霊学園に先輩後輩という概念はない。“力”の強力さ、制御の有無がものをいうこの学園で、年齢など関係のないこと。実際瑠璃は上級クラス3位――すなわち学園で3位という実力を持っている。瑠璃の上にいるのは高等部3年の男と女。因みに、二人とも瑠璃の知り合いである。
しかしそれがどういうものかぐらいは知っている。仕事先で上下関係がしっかりしている学校に行けば、そういうものなのだと思う他ないのが、瑠璃のように初等部から入学した者の宿命だと思っていた。なのに。
「…後輩が、何だって?」
「親父から聞いてねぇの?」
今度こそ瑠璃が本当にあからさまに嫌な顔をしたので、瑠音は苦笑いをしながら自分のツイていない役回りを恨んだ。
「今回のグループ仕事、瑠花のグループの――要するに中等部の子たちが手伝ってくれるってさ」
「ねぇ馬鹿兄貴、瑠花のグループ、ってさ…」
馬鹿兄貴とは勿論、瑠音のことである。瑠璃が唾を飲む音がした。
「確か、女子斑だったよね!!可愛い子いるかな?」
こちらを見上げて目を輝かせる妹に、瑠音は拍子抜けした。
「…お前はそこか…、そこなのか……。一応お前も女なんだから…」
「一応、って失礼な!僕はれっきとした女だよ!!」
「うるせーぞレズ」
叫ぶ瑠璃に、剛志が後ろから笑いながら囃し立てれば、
「うるさいよホモ」
とすかさず冷淡な声が返ってきた。
「お前は本当、その男嫌いどうにかならないわけ?」
上から苦笑い混じりの兄の声が聞こえ、瑠璃は瑠音を睨み付けた。
「うるさい馬鹿兄貴」
「お前はあんまり兄を馬鹿にするなよ~」
ヘラヘラとする瑠音に、「何?撃たれたいの?」と銃を構える瑠璃。その中身は、実は実弾ではない。
「お、おい止めろよお前のその水鉄砲マジおっかねぇから!!」
瑠音は冷や汗を顔に浮かべ、両手を前に突きだした。そんな瑠音の様子に、瑠璃は溜め息をついて銃をしまう。銃の中には、とある人物の“力”を使って切り取った、瑠璃の“力”の一部が入っている。
「望璃(ミノリ)さんが僕の姉だったら良かったのに」
「いやあいつは満月だし」
「望璃さんが水野だったら良かったのにな」
望璃とは、五大名家満月家の一人娘満月望璃(ミツキミノリ)のことである。瑠音の1つ上の幼なじみ兼同僚で、瑠璃が唯一慕っている年上だった。瑠璃は年上だろうが年下だろうが、自分よりランクの低い――つまり“力”が弱い者には容赦ない。そういう意味では瑠音も慕う対象として充分なはずなのだが、いかんせん性格が性格なので認められないのが現状だ。
「あいつが水野だったらあいつの通り名は消え失せるぞ」
正論を言う瑠音がいちいちムカつく。
作品名:聖霊学園 作家名:秀介。