貴方が望むなら[前編]
だからだろうか、自然とうな垂れそうな思いがわいてきている。淡々と分析したヤワは、シェの腕を元に戻して、退去の体勢に入った。
「……〈観測者〉はどこだ」
「ああ、やっぱり先生も気になりますか」
「当たり前だ」
「先生と陛下が一連であるのと同じように、カプリ・シェにも一連である相手がいたはずなんですが」
ご存知で?
そう問う青年に、ヤワは首を振った。
「さて、な。プロフェとは言っても、同位の者のことはわからんさ」
「そうですか」
「さしあたり、問題となるのは…シェの思い人の選定と、〈観測者〉の洗い出しだ」
「それは俺たちだけでやるのは大変だと思いますが」
「誰が君とやると言った」
「あ、あれ?」
「メル」
呆れた目で見つめられて青年はたじろぐ。なんだろう、ちゃんと言ったはずなのに何か伝わっていない気がすると内心でぐるぐるして。
「君がいると私のペースが狂いやすい、シェのことを少しでも悼む気持ちがあるなら」
近寄るな。
そうさくっと言って出て行ったヤワを見送って、青年はぽかんと開きっぱなしだった口を押さえる。
「せんせい…それはなんですか、俺のことを少しは、意識してるってこと、じゃないんですか?」
え、何、ちょっとは脈有り? いや脈あってもあの人なんか凄い面倒な手順踏まないと落ちてきてくれない気がするけどっ。いやいやいやいや問題じゃないねっ。
じわりとした実感が沁みてくる。
メリルカルシェ・ルルラは十年来の片思いが実りそうな予感に、唇を緩やかに吊り上げた。
上等。
〈星〉だろうが、〈観測者〉だろうか知るか。
今重要なのは、この帝都に〈教授〉が、いいやっ、先生がいるってことだけだ。〈導師〉? 知るかそんなものっ。
作品名:貴方が望むなら[前編] 作家名:有秋