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貴方が望むなら[前編]

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ヤワを責める視線が集まるが、この男、他人の目など気にならない体質だ。見られているという意識もなく、ため息をついて、食事に手をつけている。
付き合いが多少長いものは、途方にくれているとか、ヤワなりに何か困っていることがあるというのは伝わるが、いかんせん、顔色が少しも変わらず。むしろ平然としすぎて腹が立ちそうな按配で。
「…あの、少し気になったのですが」
ぎすぎすした空気になりそうなタイミングで、青年が口を開いた。視線はノウェに当たってる。およ、と水入りグラスを傾けおっちゃんに何よう? と問い返せば、青年は少し困ったように。
「先生と親しいんです、よね」
「んあー…あー、なるほど」
ぴしゃりと自分の額を叩いたノウェは、集まっていた周りを散らかして、ツェツェに食べ物を注文して厨房に追い返す。そして自分はどっかりとヤワの隣に腰を据えた。正確には、青年と、ヤワの間だ。
「自己紹介が遅れてすまねぇ。おっちゃんはノイウェルだ」
「ノイウェル氏」
「ノウェでいいって…ヤワとは初対面に「小ざかしい面したお貴族さまはとっとと出ていきな」と言って殴り飛ばされた仲だ!」
正直それ以上の言い方を知らん、以上!
「ええと…つまり」
「この場かぎりの付き合いって奴だなぁ、ヤワ」
「そうらしいな」
「おれぁヤワの職も身分もすんでるとこも知らねぇが、こいつがまぁまぁいい男で、たぶんいいとこ出で、ここに居ればいつか会えるってわかってりゃいいんだ」
話すことは小難しいばかりだが、どうしてだが一緒にいれば酒が美味い。そう思える相手、それ十分。言い切ったノウェに青年はぱちくりと瞬きして、笑みを零した。
「先生のお友達、ということですね」
「……や、それは、なんか…」
物凄く、むずがゆい。言葉の通りにがりがりとあちこちを掻き毟る様は本気で。青年は益々顔を綻ばせた。
「メル」
「釘を刺さないでください、わかっています」
「んよ」
「余計なことを言うなと言っただけだ」
空になってしまった皿を名残惜しげに突いてフォークを置いた男に、飲んだ暮れの悲しそうな顔が向けられる。
「お前ほんっとにつめてぇなぁ」
「君に私を教える意味がないだろう」
「俺のことは知ってるくせにっ」
「いや、知らないが」
「いいやその顔は絶対しってるっ、俺がこないだかみさんに強か叱られて寒空の下放り出されたことまでお見通しって面だ!」
「君がそう駄々漏れで情報を落としていく程度のことならば知っているが」
「知ってるじゃねぇかっ」
「………」
素面に見えて、酔っ払ってる男の論理はすさまじい。こめかみを揉んだヤワに、青年が少し笑った。
「…何が言いたい」
「いえ、先生もこの方のことを大切に思ってらっしゃるんだと…少し悔しくなっただけです」
「実に気持ちの悪い誤解をしてくれるな」
「事実でしょう」
だって、先生が本当のことを何一つこの人たちに言わないのは、この空間が好きだからだ。
露呈された真実がこの場を壊す可能性を憂えている。だから何一つ肯定せず、曖昧に濁して、ときに否定すら放棄して。あやふやな立場を作り出しているのでしょう?
問いかけは半ば以上確認の状態で。
メリルカルシェは大切な先生の新しい一面を見ることができたことを喜ぶと同時に、それを今まで極当然のように享受してきたこの場にいる全員に嫉妬しそうな思いを抱えてしまった。



作品名:貴方が望むなら[前編] 作家名:有秋