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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 義貴は悠弥に、彼なりの生い立ちを話した。 百年のあいだ、幾度かの転生を繰り返し、全国を歩き回って誰かの消息をつかもうとしたこと。そうして、絶望に取り憑かれていったこと。大伴義貴として生を受けてからは、焦りが募るばかりで、血迷い、いっそ死のうとした。電車に飛び込んで、自殺をはかったのが最初だった。手首を切ったのは、入院生活中のこと。そうして、あまりの弟の異様なさまに、姉であった由美子が問いかけ、理解し、手をさしのべてくれた。むちゃくちゃを言っても、受け止めて、義貴の救いになろうとしてくれた。そしてならばなおさら生きてゆけと、叱咤してくれたのだ。   と。
 悠弥は、義貴が由美子に見せる表情がとても素直なわけを理解した。自分はそんな家族を持っていないが、義貴には支えがあったことを心から嬉しく思った。
 信じられない……こんなに近くに、失ったと思って疑うこともなかった半身が、いる。
 まだ、夢を見ているようだ。
 風が、流れて。遠い梅雨の匂いを運んでくる。
 窓側の悠弥は、空を仰ぐ。
「……悠弥」
 義貴が低くいうので、悠弥は何かと訊き返した。
「天帝は、私たちが滅びることを、許しませんでした……。だから……いま、ここに私とあなたは生きているんでしょう」
「……ああ」
「百年、時を重ねて理解しました。何が終わったわけでもなく、何が滅んだわけでもないということを……」
 悠弥はぴくりと肩を揺らした。
「傷を癒すには、……『休息』の時間が必要でしょう。すなわち、『眠』らなければならなかったわけです。……本当の破滅は、これからのようです。みずちは、消え逝くときにこう言い残しました。『穴牟遅さま、須佐鳴さま』と」
 そう。それは、『彼ら』が我々と同じく生き延びたという意味に他ならない。
 百年前の、大激突。
「……いまになってあちこちで目だった動きが出てきています……あなたは知らないかもしれませんね。でも……あのときには、何も変わらなかった。私はそう思っていますよ」
 あの終焉は、この始まりの、序曲。
 義貴はそういう。
 仰ぐ空が、大地をうつしてふたたび鮮血の色に焼け染まるときが、くるのだろうか。
「……あなたは、これからもっと心を剛くもたなくてはならないでしょうね。悠弥」
 悠弥は義貴を見た。重たい口振りが、悠弥の胸に滲んだ。
「あなたの愛した女神は……生きていますよ」