Light And Darkness
信じられない……信じられない。頭の中が、まるで惚けたように思い切り真っ白だった。なにもなかった。動けなかった。飽和状態の頭は、思考することを手放している。
彼が、静かに歩み寄って、月の光の下で……屈み込んで優しく優しく悠弥を抱き締めた。 なんだろう……これは。喉の奥が奇妙につんとして、熱くて。ぼろぼろこぼれてくるのは。
「久米命」
そう。それが真実の、神代に戴いた名前。
「……あなたを探しました。……長かった……」
深い、優しい声が、告げる。
「……どうしました? 泣くほど驚きましたか? 高崎くん 悠弥?」
いわれてはじめておもう。ああ、これ、涙だ。ああ、おかしい。体が痛い。あっちこっちいたい。けど、なんだか心地好い。おかしくなってしまったんだろうか。そう思ったら、急に笑い声があふれてきた。声が、弾ける。なんだか可笑しくてたまらなくて、悠弥はぼろぼろ涙を流しながら笑い出した。見事に消し飛んだ建物の一角、そそぐ月光が静かに見下ろす。
そうしてみずちが滅んで、警報と非常ベルがいっさんに鳴り出したあとも、悠弥は笑い続けたのである……。
作品名:Light And Darkness 作家名:さかきち@万恒河沙