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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 ばちん、と空気が鳴った。
 ――ガァァァ! コノヨウナ呪言ニィ……縛サレテナルモノカァァ!
 屍肉を喰らって昏い霊力を体内いっぱいに蓄えたみずちは、『彼』ひとりが縛しこむにはそうとうの無理が要った。怒りに身を任せた雌のみずちは、死力を振り絞って縛を解こうとする。
「……く……!」
 縛し込もうとする彼の神力と、縛を逃れようとするみずちの霊力が拮抗する。巻き起こった風は真空の刃を生み出して手当たり次第に彼を傷つけた。真空は容赦なく衣服や肌を切り裂いて、夜目に黒く、血液が飛び散った。
 とたん、彼は穏やかな表情をかなぐり捨てた。ふいに細められた瞳に宿るは、冷然とした厳しさ。
「往生際が悪いですねぇっ!」
 叩きつけるような一喝。びくん、とみずちの躯は痙攣し、今度こそ完全に御師の神威に呪縛された。縛されたみずちは、もう動くことはかなわない――。
 身を裂く傷と滴る鮮血、激痛と貧血を気迫で堪え、彼はひとつ額を伝う血の糸を拭う。
 深呼吸――。
「――『秡戸大神』」
 右手の印、『天沼矛印』に生まれ、満ちる黄金の光。暗闇の澱みを清冽に焼き秡う、浄化の閃光。化け物たちにとっては戦慄の恐怖でしかない輝きが、暗闇を眩さに染めかえてゆく。
 ――オノレェェ! コノ光……コノ光ハ嫌イダァァァァアアア!
「ここに禍物折伏を宣誓す!」
 不浄を殲滅する、御師の神力。
「『生魂、足魂、玉留魂。国常立命!』」
 ――ナ……穴牟遅サマァァ! 須佐鳴サマァァ!
 最期にみずちが絶叫したのは、天照の弟神――遠い昔、かの天帝に反旗を翻し、謀反人になった敵神とその片腕の名だった。
 裂帛の気合い、放たれた光弾。
 夜の底が白く輝いて、霊縛結界の中に消え去ってゆく化け物の残像――ごわああ……という爆裂音とともに凄まじい力の中、建物ごとが吹き上がり、消し飛んだ。霊安室と、病室『二一〇室』……この病院のこの一角のみが、二階建てであったのが救いだった。ほかの病室はなんとか原形を止めたろう。
 光が、急速におさまってゆく。
 懐かしい光に包まれながら、悠弥はそこにそのまま、動けずにいた。
 印を解いて収め、柔らかな表情をほんのりと見せる、彼。
 大伴義貴。百年来の  懐かしい人。神代、瑞穂国を司る者として、巫女姫の案内役として、戦乱の始まりの時代に、豊葦原に、共に生を受けた者……『天忍日命』。