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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 飛び散る酸の唾液がリノリウムを溶かして煙を上げる。はっ、と我に返る。開いたあぎとが、落ちてくる。
「くそぉっ」
 ばちぃっ!
 とっさに伸ばした悠弥の両腕の先端で、夜目に明るく紫電が飛び散った。
 ――ウヌゥッ。
 鼻面をそれに焼かれた化け物は、わずかに苦悶の声を上げてのけ反り、その身をくねらせてのたうった。咄嗟に掌に『神力』を溜めて、防護壁を叩きつけたのだ。
 ――く……くそ。動きがとれねぇっ……。
 ぎらりと……本気の敵意をむき出しにした瞳が、うっそりと悠弥を見据えた。
 遊戯は止めだと……告げている。
 悠弥が不可視の神力による防護壁をさらに補強しながら歯がみした――刹那。


「そのへんにしておいてもらいましょうか」


 覚えのある――その、口調――。
 その瞬間、悠弥の中で時間が凍りついた。
「まったく、つめの甘いところがいつまでたっても変わりませんね、あなたは。さぁ、お相手は私が変わりましょうか?」
 ――ヌ……ウ……。オマエ……何者ダ。
「おやおや……私など眼中になかったようですね。もっとも、これだけ気配を殺していれば……いかにあなたでも私の正体を見破れますまいが」
 大伴義貴は、するりとひどく優雅なしぐさで立上がり、その……現実を明らかに遊離しているとしか――常人には――思えない化け物へ向けて、微笑みをひとつ、くれてやったのだった。冷めていて、残忍で、刃に似た、微笑。
「お前ごときに久米命を傷つけさせはしませんよ……私の大事な半身です」
 なん、なん……なんだって!? 
 悠弥は床に尻餅を突いていたが、それでもいっきに腰が砕けるのを感じていた。信じられない言葉がこぼれるさまを、愕然と聴いている。
「つがいが離れ離れではさぞ寂しいでしょう? いますぐ同じように、消してあげますよ……」
 ――貴様……貴様、御師ノ仲間ダッタノカ!? 貴様、御師カ!?
「……消えなさい」
 ――オノレ……オノレ、天照ノ犬メガァァァアア!
 ずしゃあ、と巨体がのたうって建物が激震し、壁に亀裂が走った。小さな破片が飛び散って降りそそいだ。床が抉れた。闇と月光が交錯した。
 悠弥は瞬きもできず、こぼれるほどに目を瞠って彼を見つめた。
 するり、と差し延べる右手の先に結ばれるのはまさしく見慣れた『印』だった。
「『オンカラテイ・バウンキリク! 神法九字霊縛!』」