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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 どんっ――闇の穴から気迫をこめて突進してくる鎌首。悠弥は手放してしまった松葉杖をちらり横目で見やりながら、横っ飛びに飛んでその一撃をやり過ごした。狭い廊下は、動き回るにはあまりにも不利だ。肩越し仰ぐと、壁にめり込んだみずちの首が、周囲のコンクリートをめりめりと剥がし、ばら蒔きながら引き抜かれるところだった。音を立ててコンクリートが崩れる。塵煙が上がった。
「くそ……やっぱり足がっ――」
 痛みは堪えられるが、立ち上がることができない。悠弥は渋面をつくって床から立ち上がれずにいた。
 愉悦を含んだ笑い声が、脳髄に反響する。
 ――情ケナヤノウ。不様ナ姿ダヨ。ククククク……。
 澱んだ瞳が、細かな塵の粒子の向こうで閃いた。月光に滑る鱗が、ずるずる……と床を張ってやってくる。酷く重たい躯を、ゆっくりゆっくりひきずりながら。
 どうする。
 みずちという怪異な獣に対抗する術をもたない人間たちは、みずちのめくらましの術で、絶対に眠りから覚めることはないだろう。みずちは、誰にも邪魔をされたくなかったのだ。夫の敵を討つ  そのために。
 その点については、思慮分別のあるところで助かったともいえるけれど。
 術の拘束によって自然でない眠りに無理やりひきずりこまれた人間は、このままでは傷つけられようが、建物が倒壊して押し潰されようが、意識を取り戻すことなく死んでしまうだろう。下手なことはできない。被害を最小限に食い止め、この場で仕留めなければ。 けれど、体が  癒えてはいない怪我を負ったこの宿体が、いうことをきかない。
 ――まて……よ――!?
 悠弥はそこまで思考を巡らせてから、何かとてつもなく重大なことを見落としたことに気がついて、驚愕した。そう……そうだ。
 いま、自分はなんと考えたか? 
 ――みずちという怪異な獣に対抗する術をもたない人間たちは、みずちのめくらましの術で、絶対に眠りから覚めることはない……そう。そのはずだ。ということは、いまここで意識を保っていられるのは『御師』である天津久米命のみであるはずで。それではひとつ矛盾する。 月の光に透される、みずちの向こう。廊下。ふたりの看護婦を庇うようにして  いま、こちらを向いて立ち上がる長身の影。
 こいつは――なんで正気を保っていられるんだ……何者だ!?
 刹那。
 ――死ィネェ!