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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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「高崎くん……」
「早く!」
 看護婦たちを横目に、壁に背を預け、壁伝いに暗い……穴の向こう。真正面から間合いを取って覗き込む。
 ずるぅ……――。
 のっそりとてでくるそれ。
 真闇から、それは月の明りのもとへゆるゆると緩慢な動作で身を晒した。地の底から絞り出すような凶悪な『思念』が、暗い感情をしこたま溜めたといわんばかりに響いた。
 ――御ォォ……師イ……ッ。
 てらり、と光る鱗。凶刃の如く閃く冷たい眼。何か人の形をしたようなものをくわえたあぎと。悠弥はすぐさまそれが霊安室に安置されていた『死体』であることに思い当たった。こいつは、屍肉を食らっていたのだ  ここに隠形の術でひそみ……。
 胴回りが一抱えもある、巨大な、けれどどこか不完全なる竜の姿をした……化け物。
 こんな不様な怪我をしてまで倒したはずの、化け物。みずち、の姿がそこにあった。
 どういうことであるのか――悠弥はすぐさま悟った。暗い想念の塊が叩きつけられて。
 あの日、倒したみずちは雄。いま、目の前にいるのは、雌。
 このみずちは、つがいだったのだ……。


 ――ヤットキタネ……。


 どさり、とみずちはくわえた屍を無造作に投げ捨てた。ここへは復讐のつもりでやってきたのだろうが、なのに何日も食欲を満たすことに走ってしまうあたりが下等動物だ。
 ともあれ、これが騒動の原因らしい。『音』は、夜な夜な悠弥を探して徘徊していたのだ。
 ――妾ノ夫ヲ殺シタノハ、オ前ダネェ。ドウシテクレヨウカ? 御師ヨ。
 悠弥は軽く舌打ちしたが、覚悟を決めると肩を竦めて声の調子を落とした。 
 忌々しい、自由にならないこの怪我。
 いざとなれば、宿体を捨てて相打ちにするか。どうせ、この『高崎悠弥』という宿体が滅したとて、死ぬことは許されないのだ。
 ……多栄子の顔が、頭を過ぎった。
「しかたない。……相手してやるよ。おれを、探していたんだろう……」
 ――アアソウダヨ。存分喰イ飽キタカラ、オマエヲ殺シテ喰ロウテヤロウヨ。
「ふん――」
 霊安室から死体が消えた――などという大騒ぎにならなかったのは、このみずちの術のせいに相違ない。異形の化け物にとって、人間どもの記憶を都合のいいように捩じ曲げることは造作もないのだ。現実をすり替え、見える真実に目隠しをする。
 ――ヤツザキニシテクレルヨ!