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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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 ――ったく。怪我してもしらないぞ。


 例の病室――いわゆる『開かずの二一〇室』というやつは、病棟のいっとう北側の端に位置していて、構造上、この一角だけは二階止まりになっている。そこから廊下の突き当たり、階段を下ると一階。踊り場から、降りたって、澱んだ暗さに包まれている正面廊下の向こうが、病室の真下、噂の霊安室。左へゆけば、ナースセンター。右へゆけば、診療病棟。
 悠弥と義貴は、しかしその正面、闇へ向かって伸びてゆく廊下に黄色い光を見出だした。
 もの怖じしている暇はない。松葉杖をつきながらのろのろ駆け出してそこへゆくと、悠弥が考えたとおりの物がほぼ揃っていた。
 窓を遮るブラインドからもれる、月の光でなんとか視界はきく。
 光って見えたのは懐中電灯の明りで、電球をカバーする硝子と反射版が割れてあたりに散らばっていた。倒れていたのは、二人の看護婦だ。
 それぞれ抱き起こしてみると、傷はなかった。なにが、彼女たちを失神させたのだろう。
 叩いても揺すっても、目を覚まそうとしない看護婦を、ふたりは反対側の壁に凭せかけるようにしておいて、何が起きたのか確認しようとした。
 奥へ、足を進める。
 二一〇室のすぐ下――つまり死体安置室だと、プレートが示す。
 そのとき、だった。


 めり、という音を、悠弥の耳が捕らえた。
 亀裂が走る音。
 そして――満ちる、禍々しい気配。


 ごぉん――!!
 大音響とともに、ドアが回りの壁ごと吹き飛んだ。
「う……わぁっ」
 悠弥は咄嗟のことで、松葉杖を飛ばされ、足を縺れさせてよろめいた。
 壁に叩きつけられるすんでのところで、悠弥は義貴に支えられて態勢を立て直した。合板とプラスティックのドアが吹き飛び、コンクリートの壁の破片が廊下に散らばった。たったいまの圧力で捩じれた鉄筋がその端から覗き、抉れたような穴が……出現した。
 ざわり、と――悠弥は肌があわ立つのを感じた。
 知っている……この、気配!
 肩を抱く義貴の指を、振り払う。
 暗い穴の奥でぞろりと気色の悪い音がした。


 ずるずる、ずるずる。


 そして、悠弥は身構える。
「大伴さん、おれからはなれて。できれば、自力で逃げて下さい」
 自由にならない片方の足を、このときほど厭わしいと思ったことは、ない。自分のみを守りきるのが精一杯だ。
「何を見ても、驚かないで」